おまけ 夕焼けで赤く染まった鮫川のほとりで抱きしめ合って、でもここが公共の場所だと言う事に気づいて慌てて離れたのは先ほどの事だった。 二人、とぼとぼと駅に向かって歩きながら、近況報告など取り留めの無い事を話していた。 そこで陽介は、ふと今日学校で考えていた事を思い出した。 「相棒。」 「ん、何?」 「あの…さ。…お願いがあるんだけど…。」 「どんな?」 「えっと、…プレゼントなんだけど。」 「あっ、ごめん!勢いできちゃったから、何も持ってきて無くって。」 プレゼントを催促されたのだと思った敦貴は、ペコリと頭を下げた後、後日必ず送るからと謝ってきた。 別に何か品物が欲しかった訳じゃない陽介は、慌ててそれを否定した。 「あっ!いや、そうじゃなくって。別になんか欲しいとかそんなんじゃなくてさ。あ、いや、欲しいものはあるんだけど物じゃないと言うかだな………あ、あのさ。」 本来は電話越しに言うつもりだったから、少しぐらい大胆な事言ったって平気だと思ってたけど、本人を目の前にして言うとなると話は別だった。 もう、スッゲー恥ずかしかったけど『誕生日なんだから、特別な日なのだから』と自分に言い聞かせて、敦貴のブレザーの裾をクッと掴んで立ち止まった。 「あのさ……誕生日プレゼントにお前が…、敦貴が欲しいな、なんて………。」 最後の方は消え入りそうな程小さな声になってしまったけど、敦貴にはちゃんと聞こえたと思う。 俯いて、しかも目を瞑って言ったから顔も何も見えなかったけど、ブレザーを掴んでいた手に敦貴の身体がピクリと震えたのが伝わってきたから。だからちゃんと聞こえていたと思う。 思うのだけど、それ以来何の反応もなくて、どうしたのだろうと顔を上げて見てみたら、口をぽっかりと開けて驚いている間抜けな顔がそこにあった。 あまりにも珍しいその光景に、陽介は恥ずかしかった事も忘れて、相棒でもこんな間抜けな顔する事があるんだなと関心して見つめてしまった。 すると今度はその顔があっという間に真っ赤に染まって、これはまた輪をかけてめずらしいなんて思いながら眺めていたら、急に腕を掴まれて敦貴が早足で歩きはじめた。 「えっ!ちょっ、ちょっと!」 引きずられる様にして連れてこられたのは、八十稲羽の駅だった。でも駅に着いて向かった先はホームでは無くトイレだった。 一番奥の個室に押し込められたと思ったら、敦貴も一緒に入ってきて鍵を閉められた。 「何故こんな所に?」と問いただそうとしたけれど、その前にギュッと抱きしめられて噛みつく様な激しいキスをされてしまい、それは叶わなかった。 息がうまくできなくて苦しいのに、でも絡みつく舌とぬくもりが気持ちいい。 しばらくして解放された唇からは、飲み切れなかった唾液が零れ落ち、荒い息が静かなトイレにこだました。 「…っは、…はぁはぁ…急に…はぁ…どうしたんだよ。」 「だって、陽介があんな可愛い事言うからだろ。」 「あんな事って…さっきの?」 「そう。俺も陽介が欲しい。」 「えっ?!もしかしてここでするつもりなのか?!!」 いくら『お前が欲しい。』なんて言ったからって、まさかこんな誰がいつ来るとも分からない駅のトイレでする事になるなんて思いもしていなかった陽介は、抱きついてくる敦貴を慌てて引きはがそうとしたけれどビクともしなかった。 「電車の時間まであと30分しかないんだから、移動してる暇なんてないだろ?」 「そ、そりゃあそうだけど、でもこんな所でっ!」 「ちょっと黙って。」 もう一度合わされたくちづけは、先ほどの様な荒々しいものでは無いけれど、逃げる陽介の舌を絡め取って的確に快感をもたらし、陽介の思考を奪っていった。 くちづけしながらも、敦貴の手は陽介の身体を撫でまわし、ベルトに掛った手が片手で器用にベルトを外して、下着ごとズボンをずり下ろされる。 身体を捩って抵抗しようとしたけれど、無駄なあがきだった。 キスだけで反応し始めていたモノを掴まれて、少し乱暴に扱かれ始める。 痛みに眉を歪めながらも、それ以上に強い快感に身体の力が奪われていく。 久しぶりに触れられた身体は、どこもかしこも敦貴を求めているのがわかる。 もっと触れて、もっとお前の事を感じさせて欲しいと。 ここが駅のトイレなんかじゃ無ければ、何もかも忘れて、もっと乱れて敦貴の事だけを求めていたかもしれない。 唇が離されて、溢れそうになる声を彼の肩に自分の唇を押しあてる事で堪えた。 いつもより性急な手の動きに、陽介の限界は近かった。 「んっ……、あ、…あつ…たか。もっ…もうっ。」 「いいよ。そのまま出して。」 「で、でもっ…あッァッ…アッ!―――っ!!!」 最後にギュッと鈴口を擦られた刺激でドロリとした白濁が敦貴の手の中へと吐き出された。 余韻に浸る間も無く、陽介の吐き出した物で濡れた敦貴の手が、陽介の秘部へと伸ばされる。ヌルリと濡れた指が一本差し込まれ、傷つけないように、でもいつもより性急に陽介の中をかき回しながら解していく。 「…はぁ……ぁ……ん…もう…。」 「もう大丈夫?」 声には出さずにコクコクと頷いたら、差し込まれていた指を抜かれて、その喪失感に身体が震える。 そしてクルリと後ろに向けられて、壁に手をつくようにと言われた。 「陽介があまりバックからするの好きじゃないのは知ってるけど、今日は我慢してね。」 敦貴の言う通り、陽介はあまりバックからされるのは好きじゃ無かった。 体勢的にはバックからの方が楽なのは分かっているけど、敦貴の顔がよく見えないからだ。 とろけそうな程の笑顔とか、感じて余裕の無い顔とか、普段あまり見る事の出来ない表情を色々見せてくれるのが好きだったのだ。でも、確かにこんな場所ではそんな贅沢も言っていられない。 言われた様に壁に手をついて、尻を突き出すような姿勢に恥ずかしさで顔が熱くなる。 スルリと尻を撫でられてから腰を掴まれて秘部に熱いモノが宛がわれた。 これからその熱いものが自分の中に入ってくるのかと思うと、期待で胸が高まる。 狭い入り口を押し分けながら、敦貴の剛直が陽介の内へと入ってきた。 「くっ……ん…っ…。」 もういいとは言ったものの、完全に解しきれていなかった中は狭く、圧倒的な質量と圧迫感で息が詰まる。 「…きつッ……ようすけ…大丈夫か?」 きっとこのまま奥まで貫いてしまいたいだろう衝動を抑えながらも、陽介を気遣ってくれる彼の優しさが嬉しい。 頷いて大丈夫である事を伝えると、いたわる様にうなじにキスをされた後、敦貴の片方の手が陽介の前へと伸ばされて竿を扱きはじめた。 「アッ…。」 「陽介、あまり声を出したら外に聞こえちゃうよ。」 敦貴の指摘にギクリとする。 高まる快感に、漏れそうになる声を必死で堪えた。 漸く敦貴の全てが収まり、ゆっくりと彼の腰がグラインドを始める。 指を噛む事で声を堪えていたが、それを敦貴に見咎められて指を外されてしまった。 「ゆび、噛んじゃダメだろ?」 「…っ、でも、声が…っ」 このままでは声が漏れてしまうと振り向いて訴えたら、唇を彼の唇で塞がれた。 打ち付けられる腰の動きが激しくなり、一際奥まで貫かれた次の瞬間、目の前が白くスパークして二度目の絶頂をむかえ、敦貴も陽介の中へ熱い飛沫を注いだ。 急いで後始末をしてトイレを出て、ホームへと辿り着いた時には電車の時間まで後僅かとなっていた。 日の暮れた薄暗いホームには二人以外誰もおらず、涼しい風が吹いていた。 「身体大丈夫か?」 自分でしたくせに、心配そうに訊ねてくる相棒に、少し頬を染めながら「なんとか……でも、もうトイレでとかは嫌だな。」って言ったら「ごめん。でも、陽介があんな事言うからだろ。」って言われて……… 「確かに……お前の事が…その……ほしいって…言ったけど……でも、まさかそんな今すぐだとは思わなかったし、トイレでするなんてだな。」 「うん。でもさ、好きな子にあんな事言われたら我慢なんてできないよ。」 「うっ……。」 「もし立場が逆だったら、陽介は我慢できた?」 「それは……。」 確かに敦貴の言う通りだったからその後は何も反論出来ずにいたら、敦貴は楽しそうにクスクス笑ってた。 少ししたら遠くから電車の走る音が聞こえてきた。 もうすぐ相棒が行ってしまうと思ったら寂しくて、思わず彼の手を掴んでしまった。 驚いたように振り向いた相棒が、すぐに表情を柔らかくして、触れるだけのキスを唇にしてくれる。 「夏休みに入ったら家においでよ。」 「え?」 その時、ガタンガタンと音をたてて電車がホームへと滑りこんできた。 「夏休みに俺の家においでよ。観光したり、いっぱい勉強したり、色々な事をして一緒に過ごそうよ。」 「……いいのか?」 「もちろん。」 電車のドアが開き、つないでいた手が離されて電車に相棒が乗り込んだ。 そしてすぐにクルリとこちらに振り返る。 「待ってるから。」 「わかった。また、いつが大丈夫か電話する。」 「うん。楽しみにしてる。」 「俺も。」 嬉しそうに笑う敦貴に、陽介も笑って答えたら、電車のドアがゆっくりと閉まった。 動き出した電車をホームの端まで追いかけて、電車の姿が見えなくなるまで見送った。 そして、もう完全に電車の姿が見えなくなってしまった闇に向かってポツリと呟く。 「ありがとう敦貴。」 会いに来てくれてありがとう。 今日、お前と過ごした時間をきっと、ずっと忘れない。 ----------------- このお話はこれで完全にお終いです。 長々とお付き合いありがとうございました。 |