君が足りない4



一条と教室で別れた陽介は、教室まで迎えに来た里中と天城に連れられて、元特別捜査本部ことジュネスのフードコートへとやってきた。
そこには先に来ていた後輩3人組とクマがおり、自分達3人が到着した事により敦貴を除いた特捜隊メンバーが勢ぞろいする事となった。
今日は特に約束をしていた訳でも無いはずなのだが、俺が忘れているだけだろうか?
しかも何故だか皆、神妙な面持ちでこちらを見ている。
自分でも気付かないうちに、何かやらかしてしまったのだろうか?と色々考えてみたが、結局思い当たる事と言えば先ほど一条に指摘された事ぐらいだった。
まさかとは思いながらも、とりあえず空いている椅子へと座った。
座ってはみたものの、皆特に何を話す訳でもなく、ただじっとこちらを見つめてくるだけで、居心地が悪いったらありゃしない。
どうにかこの空気を打破する為に、何か話そうと陽介が口を開きかけたその時だった。向かいに座るりせの手がにゅっと伸びてきて、陽介の頬へと触れてきた。
りせの突然の行動に驚き、慌てて顔を逸らせようとしたが、逃げる前に両手でガシッと顔を掴まれてしまう。

「ええっ!ちょっ、りせ?!」

わたわたと慌てる陽介の様子など気にもせず、りせは少しずつ顔を近づけて、鋭い目付きで陽介を見つめてきた。

「………やっぱり荒れてる。」

「…………へ?」

ぼそりと呟かれたりせの言葉が理解できずに、思わず間の抜けた声が出た。
そのままキョトンとする陽介の顔を、りせの両手が何かを確かめる様に好き勝手に撫で始める。

「あー、もう!やっぱり荒れてる!ちょっと直斗君どう思う?」

「明らかに寝不足ですね。目の下にうっすらと隈も出来ているようですし。」

いつの間にか陽介の隣に来ていた直斗も、りせと一緒に覗き込むようにして陽介を見ていた。

「あと、栄養不足もあるかもクマー。最近のヨースケ、あまりご飯食べてなかったクマ。」

「まったく、そんなんで身体でも壊したらどーするんすか先輩。」

「お肌こんなに荒れちゃって、花村先輩から顔とったら何にも残らないんだからね。」

クマや完二までその会話に加わって、何故か陽介のお肌&健康チェックが始まってしまった。

「ちょっ、まっ、な、なんなんだよお前らは!」

驚きでされるがままになっていた陽介は、漸く我に返って、今度こそりせの手を引きはがした。

「しかも好き勝手言いやがって、肌が荒れてよーがなんだろうが、そんな事男の俺には関係ねーだろうが!」

「関係おおありよ!!」

堪らずまくしたてた陽介だったが、すぐにその言葉を遮るように、今まで黙っていた里中がテーブルを両手でバンッと叩いて言い返してきた。陽介はその迫力に負けて思わず黙ってしまう。

「最近あんたが元気なかったのに、あたし達が気づいてないとでも思ってたわけ?!」

どうやら一条が言っていた通り、特捜隊のメンバーには自分が落ち込んでいた事などバレバレだったようだ。
興奮して、まだ何か言い募ろうとする里中を宥めながら、今度は天城が話しかけてきた。

「そうだよ、花村君。関係無くなんて無いよ。戦いが終わっても私達が仲間で、友達だって事にかわりはないでしょ?それに私達、葵君が帰ったあの日に『陽介の事、頼むね。』って彼に頼まれたんだから。」

天城の言葉に、他のメンバーもうんうんと頷いている。どうやら自分は結構周りに心配を掛けていたようだ。
それにしても『陽介の事、頼むね。』ってなんだ?そんな事頼んでんじゃねーよ!と少し心配性な、遠く離れた相棒に心の中でツッコミを入れた。

「そうですよ。しかも明日葵先輩に会うって言うのに、こんなやつれたままの花村先輩を葵先輩に見せる訳にはいかないでしょう。」

申し訳ないとしょぼくれていた陽介だが、天城に続いて話しだした直斗の言葉の中に、聞き捨てならない単語をみつけて、椅子が倒れるのも構わず勢いよく立ちあがった。

「明日敦貴に会うって、敦貴がこっちにくるのか?!!」

突然の吉報に喜び興奮する陽介だが、しかし天城はそんな陽介に向かって冷静に言い放った。

「来ないよ。」

「………え?だって、今、直斗が会えるって言ったじゃねーか!」

「うん。だから、花村君が明日、葵君に会いに行くの。」

「は???」

事態の急展開に、陽介は少々混乱していた。
敦貴に会えると言われたから、彼がこちらへ来るのかと喜んだら、来ないと言われるし。挙句の果てには、お前が会いに行くのだと言われて、何が何やら訳がわからない。

「ちょっと待て、そんな事いつ決まったんだよ?!」

「昨日だよ。」と天城が。

「明日って土曜日だろ?」

「そうっすね。」と完二が。

「学校はどうするんだよ?」

「病欠って事にしとくから。ノートは一条君がとってくれるから大丈夫!」と里中が。

「大丈夫って…、バイトもあるし。」

「バイトはクマが代わりに出るって言ってあるクマ。あと、明日の事はパパさんとママさんにも了解とってあるクマ。ママさんが『今回だけよ。』って言ってたクマ。」とクマが。

「…マジかよ……。うちの両親と一条までグルなのか?」

そして最後に、直斗が陽介の問いには答えずに数枚の紙を差し出してきた。

「そんな訳で明日は9時の電車に乗って下さい。乗り換え駅や電車の時刻はこれに書いておきました。あと、こちらが葵先輩の学校の住所と地図です。」

受け取った紙には直斗が言った通り、電車の時刻等、敦貴の学校への行き方が事細かに書かれていた。

「それと、これを葵先輩に渡してほしいっす。」

完二が、何処から取り出したのか大きな紙袋を陽介の前に置いた。

「これは?」

「お土産っす。本当は葵先輩がこっち来た時に渡そうと思ったんすけど、早い方がよさそうなんで。」

受け取った紙袋に何が入っているのかは分からないが、大きさの割に軽くいので、また完二お手製の手芸品でも入っているのだろう。大きさからしてクッションか何かだろうか?

「そんでさ……。俺、明日本当に敦貴のとこに行くわけ?」

「なによ、行きたくないの?」

「いや、そう言う訳じゃないけど。あいつはこの事知ってるのかよ?急に行ったりしたら、迷惑かかっちまうだろ。」

「…………迷惑?」

「花村君が葵君のところに行って迷惑がかかる??」

陽介は常識的な事を普通に言ったつもりなのだが、何故か里中と天城は意外な事でも聞いたかの様に驚いて首を傾げ、その後メンバー全員に……

「「「ありえない。」」」

と口をそろえて言われてしまった。

「花村先輩が会いに行って、葵先輩が迷惑がる訳が無いじゃないですか。」

「そうっすよ。」

「私や他の人が、アポも無しに急に会いに行ったら、それは困るかもしれないけど、花村君だよ?」

「ありえないクマ。だってセンセイ、ヨースケに…

「「「べたぼれなんだから。」」」

またもや声をそろえて言われてしまった。
今度のはさすがにちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
皆の中で俺と敦貴はどのように見られているのだろう……?
顔が熱くなって、鏡を見ずとも顔が赤くなっているのがわかるから、両手で顔を隠したけどきっと皆にはバレバレだろう。

「だから花村先輩は、とにかく葵先輩に会いに行ったらいいの。じゃないとかわりに私が行っちゃうんだからね!」

「そうクマ!クマだってセンセイに会いたいクマ。でもヨースケはもっとセンセイに会いたいの知ってるクマ。だからセンセイに会ってきんしゃい!そしたらヨースケ元気になるでしょ?」

心配そうに腕にしがみ付いてきたクマの頭を撫でてやりながら、涙が出そうになった。
心配かけてしまった事を申し訳なく思いながらも、皆の気持ちがとてもうれしくて、零れそうになる涙を我慢しながら、一言「ありがとう。」と告げた。










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