君がご馳走



「やっぱ、お前の料理は最高だなー!この角煮とか絶品だ!」

敦貴の作ってきた弁当を褒める陽介の声が、昼休みの屋上に響き渡った。
3月に入ったばかりの屋上には、陽介と敦貴以外に誰もいない。
晴れているとは言え、まだまだ寒さの厳しいこの時期に、屋上で弁当を食べるもの好きなど、自分達ぐらいである。
少しでも寒さをしのぐ為に、出来るだけ風の当たらない様にと建物を背にして、二人体を寄せ合って座っていた。
寒いのならば、何もこんな屋上で食べずとも暖房のきいた教室で食べればいい話なのだが、それをしないのは二人だけの時間を大切にしたかったからだ。
教室だとどうしても色々な邪魔が入ってしまう。
3月に入った今、もうすぐ都会へ帰ってしまう相棒との二人きりの時間はとても貴重だった。

「陽介は大袈裟だよ。でも、そんなに喜んで貰えて素直に嬉しいよ。ありがとう。」

「大袈裟じゃねーって。今まで食ったどの角煮よりもうめーって!それと礼を言うのは俺の方だ。ありがとな。ちょー幸せ。」

夢中で弁当を食べる陽介を見ながら、敦貴が「やっぱり大袈裟だよ。」と言って、はにかむ様に笑った。
敦貴はそう言うが、陽介にしてみれば全然大げさなどでは無かった。思ったままの素直な気持ちを言ったまでだ。敦貴が作る料理は本当にどれも美味しくて、一口食べれば口の中はもちろん、体中に幸せが広がるような気がした。
敦貴の何もかも包み込んでしまう様な優しさが、そのまま料理の味に出ている。そんな感じがした。



「フゥ〜。ごちそーさまでしたー。あーうまかった!」

「はい。お粗末さまでした。」

空になった弁当箱を敦貴に渡すとそれと引き換えに、水筒から注いだ熱いお茶を渡してくれた。全く、何から何まで至れり尽くせりだ。
受け取ったお茶からは、ほうじ茶の香ばしい香りが漂い。一口飲めば、体を中から温めてくれた。

「はぁ〜。お茶もお弁当も、敦貴が作ってくれたもんは、何もかも美味いよな〜。」

「陽介、さっきからそればっかり。そんなにおだてたってこれ以上何も出ないよ。」

「そんなんじゃねーって。」

陽介は少し残っていたお茶を飲み干すと、コップを脇へと置いて敦貴を抱きしめた。

「うわっ!ちょっと、陽介!」

「大丈夫。俺達の他には誰もいねーよ。」

敦貴は「まったく…。」と呆れた様に言いながらも、体の力を抜いて陽介にもたれ掛かってきたから、どうやらこのまま抱きしめていてもいい様だ。

「話は戻るけどさ、お前の作る料理は俺にとっては何でもご馳走なんだよ。実際どれもスゲー美味いし、一口食べただけで幸せになるんだ。」

本当だぞって念押ししたら、少し頬を赤く染めながら何やら考え込んだ後、嬉しい申し出をしてくれた。

「……じゃあ、今日の晩御飯も食べに来る?」

「えっ!マジでいいのか!行く行く行く!絶対に行く!」

「陽介が俺の料理で幸せになるなら、俺は俺の料理を食べて喜ぶ陽介の笑顔で幸せになるよ。だから、今日は陽介の好きなもの作ってやるよ。何がいい?」

「リクエストまでいいのか?やった!そうだな〜。肉じゃがもいいけど、奈々子ちゃんもいるんだからオムライスとかの方がいいかな?」

いざリクエストしていいと言われると、あれもこれもと色々浮かんできて、何にしようか迷ってしまう。
敦貴はと言うと、そんな陽介の様子を楽しそうに眺めている。

「よーし、それじゃあハンバーグにする!」

「了解。」

帰りにジュネスで買い物を手伝うようにと言われて、それに頷くと、陽介はもう一つ敦貴におねだりをした。

「もういっこ食いたいもんがあるんだけどいいか?」

「ん?別にいいけど。何?」

陽介は了承の言葉にニコッと笑うと、目の前にある敦貴の頬を唇でパクッと食んだ。
びっくりしている敦貴をそのままに、陽介はその頬をペロリと舐めて唇を離した。

「もう一つのご馳走。敦貴のことも食べたいです。」

きょとんとしていた敦貴の顔が、一瞬にして赤く染め上がった。

「…俺、食いもんじゃないんだけど。」

「知ってるよ。でも俺にはご馳走なんだよ。敦貴には触れるだけで幸せになれる。」って言ったら、テレながらも俺の唇にキスしてくれた。

甘い甘いキス。
大好きだよ。
君の全てが俺のご馳走。




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2012/3/18の春コミ用ペーパーSSです。





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