バレンタイン



バレンタインデー当日。
この日は朝から学校全体がそわそわした空気に包まれていた。
学校のあちこちでチョコレートを手にした女の子達が男の子にチョコを手渡しているのを見かけた。
そして敦貴も特捜隊の女性陣をはじめ、さまざまな女の子からチョコレートをもらった。

「それにしても大漁だな。いくつあるんだ?」

放課後。女の子達にもらった大量のチョコレートを、職員室で先生にもらった紙袋へと一つ一つ詰めていた。机の上に置かれたチョコレートはざっと数えただけでも20個はありそうだ。そんな敦貴の様子を椅子に座った陽介がボーっと眺めている。

「俺も少しはもらったけど、その全部が義理チョコだぜ。お前ってやっぱりもてるよな〜。」

陽介は立ちあがると、敦貴のもらったチョコレートを手にとって「どうやったらそんなにもてるんだ?」とかブツブツ言いながら、袋に入れるのを手伝ってくれた。

「俺のもらったチョコも全部義理チョコだよ。」

「またまた〜。んなはずないじゃん。」

「本当だって。もらう時に『好きな人がいるから本命はもらえません。義理チョコだったら頂きます。』って言ったから。あ、好きな人ってもちろん陽介の事だよ。」

「ばっ!………恥ずかしいやつ…。」

一瞬で顔を真っ赤にした陽介は、顔を隠す為にそのまま後ろを向いてしまった。
そうやってすぐに照れるところも本当にかわいい。
敦貴はその背中に近寄って、そっとその背中を抱きしめた。

「他の子の本命チョコは断ったけど、陽介からの本命チョコなら受付中だよ。」

「俺、男だし。」

「俺も男だけどさっきチョコあげただろ?」

昨日の夜、陽介から『最近は男の子があげる逆チョコってのもあるんだぜ』と聞いて、急いでジュネスへ行って材料を買って手作りチョコを作ったのだ。
作ったチョコは日ごろお世話になっている人や、友人などに配った。
もちろん陽介にあげたチョコレートは特別仕様の本命チョコだ。

「逆チョコ教えてくれたのは陽介だろ?」

「それはそうだけど……。」

別に本気でチョコが欲しかった訳ではない。そりゃあ陽介からもらえたら、それはそれで嬉しいけど。ただ困ってる陽介が可愛かったからいじめてみただけなのだ。

「欲しかったな〜、陽介からのチョコ。」

「………。」

急に黙ってしまったから、ちょっといじめすぎちゃったかな?と思い「冗談だよ。」って言おうとした次の瞬間。敦貴の腕の中から抜け出した陽介が、机の上に置いてあった自分の鞄から小さな箱を取り出した。
そしてその箱を手にしたまま敦貴の前に立ち、その箱を敦貴に差し出してきた。
箱を差し出す陽介の顔は俯いていて見えないけど、手が少し震えていた。
差し出されたその箱、それはスーパーなどによく売っているチョコ菓子の『たけ○この里』だった。

「…本当はもっとちゃんとしたのあげたかったんだけど、お前みたいに手作りとか無理だし。買うにしてもジュネスで買えば店の人達に何言われるかわかんねーし。他の店で女の子に混ざって買う勇気も無くって……。お前はちゃんと手作りのくれたのに、こんなのしか買えなくて……ごめん。」

『○けの○の里』それは陽介が用意できた精いっぱいだったのだろう。
バカな陽介。
かわいい陽介。
チョコなんてどうでもいいのに。俺の事を好きだって思ってくれているその心が一番うれしい。陽介がいれば何もいらないのに…。
俯いたままの陽介の手からチョコを受け取って、そのまま彼を優しく抱きしめた。

「ありがとう、陽介。すごく嬉しい。嬉しすぎてちょっと泣きそうかも。」

「…無理しなくていーよ。」

「無理なんかして無い。本当にすごく嬉しいんだ。陽介のその気持ちが一番嬉しい。」

「あつたか……。」

少しぎこちないながらも、陽介の手がギュッと敦貴を抱きしめ返してくれた。

「た○の○の里ぐらいで大げさなんだよ。」

「だって嬉しいんだから仕方ないだろ。」

「お前ってホントお人よしだよな。」

でもそう言った陽介の声はとても嬉しそうだった。

「陽介大好きだよ。」

「ん、俺も大好き。」

抱きしめていた手の力を少し緩めたら、漸く陽介の顔を見る事ができた。
その顔は、少し目が潤んでいたけどはにかむように笑っていた。
陽介は本当に涙腺が弱いなと思いながら、愛しい彼の唇に自分の唇を合わせた。


そうだ、後で二人でチョコを食べようか。
もちろん陽介がくれた『た○のこ○里』を。
子供の頃に何度か食べたその菓子が、今日から敦貴のお気に入りのお菓子になった。




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去年は屍鬼の方できの○の山でバレンタインのお話書いたので、今年はP4でた○のこ○里でした。




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