君がたりない3


<一条side>

最近、花村の元気が無い。
とは言ってもそれに気づいているのは極僅かの人間だけだろう。
花村は比較的感情が表に出る分かりやすいヤツなのだが、肝心な所は決して表に出す事は無く一人で抱え込んでしまうタイプだ。
例えば悲しいとか辛いとかいった感情だ。
一人で抱えて苦しんで、そして一人でこっそり泣く。
最近それを隠すように、いつも作り笑いを浮かべている。
誰かに打ち明けてしまえば少しは楽なのに、分かっていてもなかなかそれが出来ないのだ。

不器用なヤツ。

まあ、俺も人の事は言えないのだけど…。
原因はわかっている。
葵が都会に帰ってしまったせいだ。
「ゴールデンウィークには帰って来るのだし、すぐ会える。」なんて強がっていたけど、寂しくて仕方が無いのだろう。
互いに相棒と認め合っていたぐらい仲が良かったし、葵がまだこちらに居る時はいつも二人一緒。葵と花村、二人でワンセットと言った感じだったから。

「おーい、花村。授業終わったぞー。」

HRも終わり、皆が帰り支度を始める中、まだボーっと座ったままの花村の元へと行けば、机の上には5時間目の授業で使われた英語の教科書が開かれたままだった。いったいいつからボーっとしていたのやら……。

「え?あれ?本当だ。窓の外見てたらいつの間にかボーっとしちまってたみたいだ、いい天気だな〜なんて。」

だめだ。これは相当参っているようだ。
ちなみに今日の天気は曇り。空にはどんよりと厚い雲が立ち込めている。
一条はあからさまに大きなため息をついて、花村の前の席へと座った。

「なんだよ、そのため息は。お前だってボーっとする事ぐらいあるだろ?」

どうやらこの男は、自分がボーっとしていた事に呆れられたと思っているらしい。
確かに呆れているが、俺が呆れているのはそこでは無い。

「なあ、花村。」

「ん?」

「俺がこんな事言うのも何だけど、寂しい時は寂しいって言っていいと思うぞ。」

「………は?な、何言ってんだよ一条。はははは。」

図星を言い当てられて、ギョッとした顔をした後、誤魔化す様に引きつった表情で笑いだした。

「お前最近元気ないだろ?気付いてないとでも思ったか?たぶん俺だけじゃ無くて、里中さんや天城さん。あと、お前が仲良くしてる後輩達も気付いてると思うぞ。」

「別に俺は………う……………。」

まだ何か言い訳しようとしていたけど、バレバレだと目で訴えてやったら、黙って机に突っ伏してしまった。

「さっきも言ったけど、寂しい時は寂しいって言ってもいいと思うぞ。」

「……でも、毎晩電話で話してるんだぜ。」

「それでも寂しいんだろ?」

「そうだけど、……あいつは向こうで一人で頑張ってるのに、こっちにいる俺が寂しいなんて言えないだろ。」

「なんで?」

「なんでって!………。」

花村は俺の言葉に顔を上げたけど、そこまで言ってまた黙り込んでしまった。

「お前らってそんな他人行儀な仲なのか?もし葵が寂しいって言ったら迷惑か?そんな事無いだろ。それと一緒だよ。」

「でも………。」

「お前達“相棒”なんだろ?」

黙って頷いた花村の頭に、犬の耳が見えた様な気がしたのはたぶん気のせいだろう。
そんな彼の頭をワシャワシャと撫でてやったら、廊下にこちらを窺う里中さんと天城さんの姿が見えた。

「ほーれ、お前にお迎えが来てるぞ。」

俺にぐちゃぐちゃにされた髪の毛を、ブツブツ言いながら整えている花村に彼女達が来た事を教えてやった。「今日、何か約束してたっけ?」なんて言いながら首を傾げている花村に「女性を待たせるなよ。」と言って彼の鞄を押し付けた。

「ああ、それと。周りに心配かけないようにって作り笑い浮かべても、俺や彼女達にはバレちまうんだから、あんまり無理するなよ。友達だろ。」

「…ありがとう。」

礼を述べた花村は、作り笑顔じゃない本物の笑顔を浮かべて彼女達の元へと去っていった。






-------------------
一条君好き。
一条君は花村の良き相談相手になれると思うの。

そしてすみません。まだ続きます。
多分もうすぐ終わります。



|

「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -