君が足りない2



4月になって新学期が始まり、俺も三年生になった。
桜の舞い散る校門をくぐると真新しい制服に身を包んだ新入生の姿が見える。
新しい季節がきたのだなと思った。

三年生になって天城や里中とは別のクラスになってしまったが、一条と同じクラスになった。長瀬は里中達と同じクラスだけど、休み時間になるとこちらのクラスに遊びに来る事が多いので、最近は三人でつるんでいる事が多い。もちろん特捜隊のメンバーとも相変わらずだ。
ジュネスの店長の息子だからと敵視してくる奴もだいぶ少なくなって友達も増えた。でも…でもやっぱり敦貴が隣にいないのは寂しい。
いないってわかってても敦貴の事を目で探してる。
敦貴が帰った日から寝る前に毎日電話をするようになった。
俺からかける事もあれば相棒からかけてくることもある。
今日は何があったとか他愛も無い話をして、敦貴と会えない今、一日のうちでこの時間が一番幸せだ。
でも、毎日電話を切る間際に言ってしまいそうになる『寂しいよ。』って。
決して言わないけど、いつか言ってしまいそうで怖い。
俺なんかより一人で帰ってしまった彼の方がもっとずっと寂しいはずだから。だからもっとしっかりしなきゃいけないのに…。
ベットの上に座って握りしめていた携帯がブルブルと震えながら電子音を奏でた。ディスプレイには葵敦貴と表示されている。

「はい、もしもし。どちら様ですか?」

わかっていながらも、わざとおどけて聞いてやる。

「世界で一番陽介の事を愛している葵敦貴です。」

「バッ、恥ずかしい事言ってんなよなバカ。」

「だって本当の事だから。」

楽しそうに笑う相棒の声。きっと電話の向こうではあの優しい笑顔で笑っているのだろう。その笑顔が見たい。

「そう言えば今日さ――」

いつも通り今日の報告。
そんなどうでもいい事でも話していないと余計な事を言ってしまいそうだから。


距離が離れると心も離れる?
そんなのウソだ。
だって俺は、お前と離れてしまってもこんなにもお前の事が好きで、一日毎に好きって気持ちが大きくなっていく気がする。

「―それで天城と里中がな――」

「へー、そうなんだ。」

君が好き。どうしようもなく。

「と、まあ今日はこんな感じかな。」

「そっか、俺の方は今日はこれと言って何も無くてさ。考え事しながら料理してて、晩御飯を少し焦がしてしまった事ぐらいかな。」

「お前が料理失敗するなんて珍しいじゃん、何考えてたんだよ?」

「ん?陽介のパンツは今日は何色かな〜って。」

「ちょっ!おまっ、何言ってんだよ!何処の変態さんですか。」

「冗談だよ。でも陽介の事を考えてたのは本当。」

ドキリと心臓が大きく脈打つ。
俺の事って何を考えてたんだよ。
知りたい。でも今は聞いちゃいけない気がする。
その先を聞いてしまったら、我慢してる色々なものが吹き出してしまうかもしれない。
だからこの話はここで打ち切った。

「そろそろ寝る時間だな。」

「あ、そうだね。」

「明日は俺から掛けるから。お休み。」

「うん、お休み。」

プツリと切れた電話からツーツーと虚しい電子音が聞こえる。
電話を切った後は先ほどまでの幸せな時間が嘘のように寂しさと切なさだけが残る。

「敦貴……お前に会いたいよ…。」

声だけじゃ足りない。
会いたい。
会って、触れて、抱きしめて欲しい。


君が足りない…。




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陽介verでした。
会えないままじゃ可哀想なので、まだ続きますw


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