新しい始まりの年に君と



ピンと張り詰めた真冬の夜の空気に、はーっと吐き出した息が白くなって闇に溶けていった。

「寒い?大丈夫?」

そう言って俺の手を握ってくれたのは相棒の悠だ。

「お前の手、あったけーな。」

「ポケットの中でカイロ握ってたんだ。」

「ははは、どーりで。」

12月31日。
時刻は夜の12時前。後数分で年が明けようとしていた。
今日も陽介はジュネスで閉店まで働いていたのだが、家へ帰る途中に悠に電話をして、そのまま彼の家に押しかけたのだ。
「二年参りにいかねーか?」と言って。
すでに出かける準備を済ませていた悠を家から連れ出して、年明けまでまだ少し時間があるからと遠回りをして鮫川までやって来た。

「もうすぐ年が明けるな。」

どこか遠くから除夜の鐘の音が聞こえてくる。

「うん。…今年は色々あったけど、菜々子やおじさん。特捜隊の皆に出会えてよかった。そしてなにより陽介に出会えてよかった。」

「悠…。」

真っすぐ陽介を見つめる彼の目は冬の夜空の様に清んでいて、闇を照らす月の様に優しい光を燈していた。
繋がれていた手に力を込めてグッと引き寄せ、自分より少しだけ背の高い彼の体を抱きしめる。

「俺も悠に出会えてよかった。ありがとう。」

今年は陽介にとっても色々あった。
山野アナの死から始まった一連の事件。
相棒との出会い。
異世界での戦い。
好きだった人の死……。
他にもまだまだ色々あったけど、どんな困難も相棒や仲間たちと乗り越え、最終的には真犯人の足立を捕まえる事が出来たし、菜々子ちゃんを救う事も出来た。
そして今、こうして俺の腕の中に悠がいる。
その事が堪らなく嬉しくて、幸せだと思った。
そしてその幸せをかみしめるように、彼の首筋に顔を埋めてスッと息を吸い上げる。
大好きな彼の匂いが鼻孔を満たして、悠がくすぐったそうに首をすくめた。

「ところで陽介、二年参りに行った後の予定は?」

「家帰って寝たら、例によってジュネスで新春セールの手伝い……正月ぐらい人並みにゆっくりしてーよ。」

自分の立場上、忙しい時ほど休めないのはわかっている。
わかっているけど考えてしまうのだ、こたつに入ってテレビ見ながらおせち食ってのんびりとした正月ライフを満喫したいと。
そして出来れば隣には大好きな悠がいたら言う事無いのにと…。
まあ、どうあがいたって無理な願いなのだが………。
虚しい現実にガクリとうなだれる俺の頭を相棒が優しく撫でてくれる。

「よしよし。じゃあ俺もバイト手伝ってやるから、この後家に来ないか?」

「えっ?!だってお前、菜々子ちゃんと堂島さんは?」

「今朝からまた病院に行ってて、今夜は病院に泊りなんだ。」

「病院?ちょっ!大丈夫なのか?!菜々子ちゃんまた具合が…?!!」

先日仮退院で帰ってきて、漸く元気になったと皆で喜んでいたと言うのに、また病院に行っているとはどういう事なのだろう?
確か、今度病院に戻るのは正月が終わってからだと聞いていたのに、また容体が変化してしまったのだろうか??
なんにしても、二年参りになど行っている場合では無いだろうと慌てだす俺に、相棒が「落ち着け。大丈夫だから。」と一喝して、いきさつを話してくれた。
クリスマスに一度、仮退院をして戻ってきた菜々子ちゃんと堂島さんだったが、昨日の夜に菜々子ちゃんが咳き込んで、それを心配した堂島さんが今朝から菜々子ちゃんを病院に連れて行ったのだそうだ。
結局たいした事も無く、のどが少し赤く腫れていただけだったらしい。

「大事をとって今晩は病院に泊るって連絡があったんだ。それで昼過ぎにゆっくり帰って来る予定。だからそれまでは大丈夫だよ。バイトの手伝いも午前中だけになっちゃうけどそれでよければね。」

菜々子ちゃんが大丈夫だった事にホッと胸を撫で下ろしながらも、悠からのお誘いにドキドキ胸を弾ませる。
陽介にしてみたらとても魅力的なお誘いではあるが、本当に甘えてしまっていいものだろうかと悩んでしまう。

「で、でもさ、準備とか色々あるだろ?いいのかよ…。」

「大丈夫。おせちも作ったし雑煮の準備もしてきたしね。」

「おせちって……!お前そんなもんも作れんのか?!」

「俺に不可能は無い!菜々子には身体にいいものを食べさせなきゃいけないしな。本に書いてある通りにすればだいたい出来るよ。」

「……その言葉をうちの女性陣にも聞かせてやりたいぜ。それにしてもおせち料理を作れる男子高校生って、やっぱすご過ぎ。」

何でも器用にこなす奴だし、料理がうまいのも前から知ってはいたけれど、まさかおせちまで作れるとは……毎度のことながらこいつのスキルの高さには驚かされる。

「惚れなおした?」

「もうとっくに、これ以上ないってぐらい惚れこんでます。ホントいい嫁になれるよお前は。」

「陽介がもらってくれるんだろ?」

あまりにも可愛らしい笑顔でそんな事を言うもんだから、ドキリと心臓が跳ねあがる。

「当たり前だろ。……てか、あんまり可愛い事言うなよな。押し倒したくなる。」

「さすがに冬空の下で青カンは嫌だなー。寒そう。」

「寒そうとかってそう言う問題かよ……。」

少し的外れな回答に、思わず脱力してしまう。
まあ、たまにちょっとずれた事を言うのも相棒の可愛いところなのだけど。

「こんな所で押し倒したりしないから安心しろ。お前を頂くのは初詣が終わってから、お前の部屋でな。お前のとこに泊っていいって言うのはそう言う事だろ?」

「……わざわざ確認する所がガッカリだって言うんだよお前は。」

ポカリと頭を叩かれたけど、力が入っていなかったから全然痛く無かった。
そしてこっそり覗き見た彼の顔は、ほんのり赤く染まっていた。

 * * *

そうこうしているうちに静かに年が明けた。
誰もいない鮫川のほとりで、二人だけで迎えた新しい年。
「あけましておめでとう。」って言い合いながら、念のために周りに誰もいないのを確認して、そっと触れるだけのキスをした。

そろそろ神社に向かおうと、人気の無い道を二人のんびり歩きはじめる。
だが、商店街へと近づくにつれちらほらと人が増え始め、神社へ着く頃にはそれなりの賑わいをみせていた。
「こんな田舎の小さな神社でも、二年参りに来る人って結構いるんだな。」なんて失礼な事を言いながら鳥居をくぐり、夜店に目を奪われながらもまずはお参りをしてからと本殿へと向かった。
財布から取り出した小銭を賽銭箱へと入れ、二人並んで手を合わせる。
何をお願いするか色々悩んだけれど、結局相棒や特捜隊の仲間、そして家族にとって良い年でありますようにとお祈りした。

「よーしっ!お参りも済んだし、屋台で軽く腹ごしらえしてから帰るか。」

「ああ、いいね。陽介は何が食べたい?」

「んー、やっぱりやきそばかな〜。」

くるりと屋台を見渡しながら、先ほどソースのいい匂いを漂わせていたのを思い出したのだ。

「そう言う相棒は何食いたい?」

「そうだな、やきそばも食べたいけど、お好み焼きとタコ焼きも捨てがたい。それとから揚げも食べたいな。あと、向こうで甘酒振舞ってたから甘酒も飲みたいかな。」

今年も相棒の食いしん坊は健在かとこっそり笑いながら、彼の背中をポンと叩いた。

「ストップ、ストップ。夜食にしちゃちょっと食い過ぎだろ?とりあえず甘酒飲んでからやきそば二つとから揚げを買おう。あ、から揚げは半分こな。」

「そうかな?うーん、仕方ないお好み焼きとタコ焼きは諦めるか。そのかわりから揚げは一つずつな。」

「しゃーねーな。そうと決まればさっさと買って、さっさと食うぞ!早く帰んねーと時間無くなっちまうからな。」

「時間?」

「そう。俺とお前がイチャつく時間。」

ぱちりとウィンクしながらそう言えば、サッと悠の顔が赤く染まった。
陽介はそんな悠の手を引っ張って、屋台の方へと駆けだした。


 * * *

「…ふっ……ぁ…あん……。」

薄暗い部屋の中に荒い息遣いが響き、カーテンの隙間から差し込む月明かりが悠の肌を白く浮かびあがらせていた。
絹のように滑らかで手触りのよいその肌に唇をよせ、一つ、また一つと赤い刻印を刻んでゆく。
悠の中に埋め込んでいる指を動かせば、グチュリという卑猥な水音と悠の甘い声が部屋に響いた。
それが恥ずかしいのか、悠が自分の口を手で塞ごうとするものだから、その手を捕まえて阻止すると途端に非難の声が上がった。

「はな…せっ。」

「何で?」

「…声……っ…やだ…。」

「いいじゃん、誰もいないんだし。もっと聞かせろよ。悠の可愛い声、もっと聞きたい。」

「悪趣味…っ…ああっ!!」

悠の中の一番感じる所をギュッと擦ってやったら、一際大きな声が悠の口から溢れだした。
もっとその声が聞きたくて指を動かそうと思ったけど、どうせなら指では無く自分のモノで感じている声を聞きたいと思い、既にほぐれているそこから指を引きぬいた。

「なあ悠、もう入れてもいいか?」

一応訊ねてみれば、悠がコクリと頷いたので先ほどまで指を差し込んでいたそこへ、自分の昂ったモノをあてがった。
まるで陽介を誘う様にひくついている入り口に、ゆっくりと押し入る。
熱い肉壁が絡みつき、その気持ち良さに一瞬で持って行かれそうになったが何とか堪えた。

「…はっ……やべぇ、お前の中気持ち良すぎ。…んッ…悠、大丈夫か?きつく…ない?」

「……ああ、…大丈夫。だから陽介の事いっぱい感じさせて。…もっと…陽介を感じたい。俺の中をお前で満たして…。」

「…はは、スゲー殺し文句。」

それでは遠慮無くとグッと奥まで腰を打ち付ければ、悠の身体がビクリと震えて胸を突き出す様に仰け反った。
その胸に舌を這わせ、胸の突起を転がす様に舐める。

「あ……ああ……ああんっ!」

「悠、きもち…い?」

「ん。すごく…きもち…いい。…もっとぉ。」

強請る様に腰を揺らしす悠の痴態に目まいがする。
さっきは自分の上げる喘ぎ声を恥ずかしがっていたのに、こうやって淫らに乱れる事もある。
そのギャップが堪らない。
わざとよいところを外して腰を打ち付ければ「やだぁ、焦らすな。」って、少し舌っ足らずな甘えた声で怒られた。
可愛くて堪らない。
下半身に一段と血が集まる。

「ふぁ……ようすけの…また、大きくなった。」

「そりゃ、お前が可愛いからな。」

今度は焦らさずに悠の良い所へと腰を打ち付け攻め立てた。
チラリと部屋の時計を見れば、もうすぐ3時になろうとしている。

「もっとじっくりお前の事を味わいたいけど、そうも言ってられねーな。」

夜店で色々食べた後、急いで帰ってきてそのまま布団の上へとなだれ込んだ。
その時既に時計の針は1時を指していた。
悠はせめてシャワーぐらい浴びたいと主張したけど、どうせまた入る事になるのだからとサラリと受け流した。
明日も朝からバイトだし、身体の事を考えると出来れば少しは寝ておきたい。
そう考えると悠とこうしていられるのも精々2時間程度だ。
バイトなんて無ければ朝までじっくり悠を堪能したいのだけれど……残念。
そろそろタイムリミットだと、打ち付ける腰の動きを早くして悠の弱い部分を集中的に攻め立てる。

「ひっ!やだ…よう…すけっ、あっ、あ…ああっ!」

腰を打ち付ける度に体が快楽で支配されて、悠の事以外何も考えられなくなる。
気持ちいい。このままずっと、もっと互いに溶け合って一つになってしまえればいいのに。
だんだん激しくなる動きと息遣い。
今、耳に響いている息遣いが、自分ものなのか悠のものなのかすらわからない。

「よ…すけ、もっ…ひっ……あああっ!!」

「ゆう、俺も……くっ!!」

共に絶頂を迎え、目の前が真っ白に霞む。
悠の白濁が二人の腹を濡らした後、陽介もまた悠の中へと熱を放った。

 * * *

ピピピピピッ!とアラームが携帯電話から鳴り響く。
眠い目を擦りながら携帯を探り当て、ボタンを押して音を止めた。
疲れの残る身体を伸ばしながら、大きなあくびを一つする。
時刻は5時半。
まだ日の昇っていない外は真っ暗だ。
結局陽介が眠りについたのは3時半頃だった。
気を失う様にして眠ってしまった悠の後処理をして、自分はそのまま布団へと倒れこんだので、体がべとついて気持ち悪い。
とりあえず風呂を借りて身支度を整えなければ。
本日のジュネスの営業開始時間は9時からだが、福袋や新春セールの最終チェックを手伝って欲しいからと7時頃には来るように言われている。
「………俺、一応ただのバイトなんだけどな。」とは、今迄にもう何十回も心の中で呟いた言葉だ。

「まあ、そんな事言っててもしゃーないか。よし、今日も一日頑張るぞ!」

両手で頬をペチリと叩いて気合いを入れる。
今日もまた忙しい一日とそして新しい一年が始まる。

「今年はどんな一年になるんだろうな?」

もぞもぞと動く気配に視線を落とせば、まだ自分の横で眠っている愛しい恋人が目に入る。
いつもは大人びて見える相棒も、眠っている顔は少しあどけなく見える。
起こすかどうか迷ったあと、彼の唇に目覚めのキスをおとした。

「おはよう相棒。これからもずっとよろしくな。」

大好きなお前と迎えた新しい年はきっと最高にステキな一年に違いない。




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確かずっと前に書いたお話です。
イベントで無料配布した分かな?
あまり覚えてないww



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