恋心4 「今週の土曜日泊りにおいで。菜々子は友達の家に泊まりに行くし、おじさんは夜勤で帰ってこないから。」 それは今朝、教室で敦貴から告げられた言葉だった。 その言葉が意味する事に自然と顔が熱くなる。 少しうわずった声でどうにか「わ、わかった。」とだけ答えた。 つまり、来るべき時が来たという事だ。 想いが通じ合ったあの日、勢いで敦貴を押し倒しそうになったけど、あの時は頭に血がのぼってしまってあまり深く考えていなかった。 後で冷静になってから『そう言えば男同士ってどうやってヤるんだ?』と言う初歩的な疑問が浮かび、勇気を出して昨日の夜インターネットで調べてみた。 尻を使うって言うのだけは知ってはいたが、色々準備しなきゃいけない事があってビックリした。 そりゃそうだよな。本来男と女がする行為であって、同性同士がするようには体は出来ていない。 それでも一つになりたいと思うなら、それ相応の準備をする必要があるという訳だ。 まあ男と女でもアナルセックスする人もいるけど、少なくとも俺はした事が無い。 「相棒はした事あるのかな?」 さすがに男同士の経験は無いって言ってたけど、女性経験は俺よりあるみたいな事言ってたし、もしかしたらアナルセックスの経験もあるのかもしれない。 そうなるとやっぱり俺が先に下になるって事になるのだろうか……。 「俺の全部をあげるから、陽介の全てをちょうだい。」と言った敦貴に陽介も同じように答えた。その気持ちに偽りは無いし、敦貴が望むなら自分の全てを差し出したいと思う。 でも、やっぱり男としてのプライドみたいなものが「こんなときぐらい相棒をリードしたい。先に上に……。」とか思ってしまう訳だ。 「花村、さっきから一人でウンウン唸ってどうしたの?」 「おわっ!!」 ここが教室だという事も忘れてすっかり思考の海へとダイブしていた陽介は、里中から急に声を掛けられて椅子から飛び上がりそうになるくらいビックリしてしまった。 そんな陽介の驚き様に、声を掛けた里中も驚いてしまう。 「ちょっ、何よビックリするでしょ。」 「あっ、わ、わりー。」 そうでした、ここはまだ学校でした。とりあえずこの続きは家に帰ってから考える事にしよう。 「ずっと難しい顔して唸ってるし、気持ち悪いでしょ。」 「千枝、気持ち悪いなんて言っちゃダメだよ。花村君どうしたの?何か拾って食べてお腹でも壊した?」 「天城、お前もサラッと酷い事言うな……。」 「え?そうかな?ごめん。」 うちの女性陣はどうも男子に対する扱いが悪い様な気がする……いや、敦貴に対してだけは別か。 本当に相棒の天然タラシスキルには恐れ入る。 難攻不落の天城をはじめ、我が校の名だたる美少女達と恋愛フラグをたてまくり、ことごとくへし折ってきたのだからもったいない。 まあ、そのおかげで俺なんかが相棒の恋人の座を獲得する事ができた訳だが……。 「ちょっと考え事してただけだから、心配してくれてサンキューな。」 「べ、別に心配はしてないけどね。」 そう言いながらも安心したように笑った彼女達の笑顔に胸の奥がチクリと痛んだ。 俺はそんな優しい彼女達や他のたくさんの女の子達の想いを飛び越えて敦貴の恋人になったんだ。 ごめんな、ごめん。 本当に俺でいいのかなって今でも思うけど、だからって誰にも譲れない。 好きなんだ、敦貴の事が。大好きなんだ。 はは、なんかこの間から色んな人に謝ってばっかだな俺。 * * * 放課後、相棒が急いで帰り支度を始めたのでどうかしたのかと訊ねたら「これから沖奈まで行くんだ。陽介も来る?」と聞かれて「え?いいの?」って聞き返したら、二人で使う物を買いに行くのだと言われた。 今一つ意味がわからなくて首を傾げたら、敦貴が俺の方に顔を寄せて耳元で囁いた。 「ジュネスじゃ買えないだろ、ゴムとかさ。」 驚いて体を離して相棒の顔を見たら、いたずらっぽく笑ってた。 全くこの男は……恥ずかしげも無くサラっとそういう事言うし。 「それでどうする?行くの?」 「…行く。」 二人で急いで学校を後にすると、それぞれ家で私服に着替えて駅で待ち合わせた。 さすがにそういう物を買いに行くのに制服姿はマズイだろう。 電車に揺られて沖奈に着いた頃には日が傾きはじめていた。 せっかく敦貴と沖奈まで来たのだから、色々遊び回りたいところだがそうもいかない。改札を出てよそ見する事なく目的の店へと向かった。 店内に入って目的の物がおいてある売り場へとたどり着けば相棒は『18歳未満の方の立入を堅くお断りします。』と書かれたピンクの暖簾の中へと躊躇う事無く入って行ってしまった。 おいおい、俺たち一応十八歳未満よと思いながらも陽介も敦貴の後についてピンクの暖簾をくぐった。 視線を巡らせて先に入った相棒を探せば、コンドームの棚の前で真剣な面持ちでゴムを選んでいた。 「相棒、何もこんなとこに買いに来なくたってゴムぐらいコンビニやドラッグストアーでも売ってるじゃん。」 「うん。そうなんだけどさ、こっちの方が色々種類あるし。それにこういう所来た事なかったから興味あったんだよね。」 まあ確かにその気持ちは同じ男の子として分かりますけどね、そんな事をさわやかな笑顔で言うのやめてもらえませんかね。本当にお前ってこういう場所似合わないよね。学校の女どもが今のお前見たらきっと号泣しちゃうよ。 「ねえ、陽介はどんなのがいい?つぶつぶのとか香り付きとか色々あるよ。あ、これなんかは光るらしいよ。」 「いや、もう別に普通のでいいから!光る必要とか全然ないから!ね!」 陽介が全力で訴えると敦貴は少し残念そうに「そう?」なんていいながらシンプルな感じのものを手に取った。 「そうだ、サイズは普通のでいい?陽介と違って俺はトイレでお前の覗いたりしないから大きさとか知らないし。」 「人の事を変態みたいに言わないで下さい……。サイズも普通のでいいから。」 先日「トイレでちゃんと付いてるの見たし。」と言ったのを根に持っているのだろうか……。見たと言っても一瞬チラッと見ただけだし、そんなにじっくり見たわけではないので勘弁してほしい。 次にローションを選び始めた敦貴に、またヘンな物を選ばれてはたまらないので無難そうな物を棚から取って手渡した。 「陽介のおすすめ?」 「そう言う訳じゃないけど…、てかおすすめとかわかんねーし。とにかくもうそれでいいじゃん。とっとと買っちまおうぜ。」 「向こうにバイブとかもあるよ。」なんて言い出した相棒に、無理やり金を握らせてレジへ行くようにと促せば、「まあいっか。じゃあ買ってくる。」と言い残してさっさとレジに行ってしまった。 普段の陽介ならこういう場所に来たらちょっとはしゃいだかもしれないが、土曜日の事を考えたらいくら陽介でもちょっと恥ずかしかったりするのだ。しかも初めてだっつーのにバイブとかありえねえだろ。それなのに敦貴はケロッと平気そうな顔で、むしろ楽しそうにゴムやローション選んでるし…。こんなとこでまで勇気ステータス『豪傑』を発揮しなくていいっつーの。 敦貴が会計を済ませて戻って「代金は割り勘ね。」と言って渡されたお釣りを受け取る。無造作にそれをポケットに突っ込むと、相棒の腕を掴んで有無を言わせず店を出た。 外はすっかり薄闇に包まれていて、さっさと買い物を済ませて八十稲羽に戻るつもりだったのに、思いの外時間を取ってしまったらしい。 急いで駅へと向かうと丁度やってきた電車に飛び乗って八十稲羽へと帰った。 別れ際「これは俺からのプレゼント。」と言って小さな紙袋を渡された。 家に帰ってから開けてみると浣腸と書かれた箱が入っていた………ちょっと泣きたくなった。 |