ハッピーハロウィン




この前若先生に会ったときに、10月31日は病院においでと言われたので、特に用事も無かったので来てみれば……病院がかぼちゃまみれになっていた………。
かぼちゃまみれと言うか、あれだ、ジャック・オー・ランタンと言うやつだ。
オレンジ色のかぼちゃに黒いシールで目と口が貼り付けてあるものが、病院のいたるところに転がっていた。
本当はかぼちゃではなく、カブで作るのが正式らしい。と、まあ余談はおいておいて。
そんなかぼちゃ達を横目に、病院のドアを開いた。
診察の終わる頃においでと言われていたのだけれど、少し早めに着いてしまったらしく、病院の待合室には2人ほどの患者と看護婦さんがいた。

「あら、こんにちは夏野君。」

俺に気づいた看護婦さんが笑顔で近づいてきた。
その看護婦さんの頭には、いるもかぶられているナースキャップではなく、魔女がかぶるような黒いとんがり帽子がのせられていた。

「こんにちは。……あの、これはいったい…。」

「ハロウィンよ。患者の皆さんにも楽しんでもらおうと思って、去年から始めたのよ。」

「はあ、そうですか。」

ちらりと受付を見れば、武藤のおじさんも黒いマントを付けて座っていた。
もしかしてあれはドラキュラのつもりなのだろうか………。

「今日はいったいどうしたの?具合でも悪いの?」

「あ、いえ。若先生に呼ばれてて。」

「あら、そうなのね。じゃあ少し待っててくれる?もうすぐ診察も終わるから。」

「はい、ありがとうございます。」

奥の部屋へと去っていた看護婦さんを見送った後で、待合室の端のほうにある椅子に座った。
15分ほど待った頃にやっと診察が終わったらしく、敏夫のいる診察室へと通された。
そして診察室で夏野を待っていた敏夫の頭には、茶色いフサフサとした耳が付いていた。

「ぶっ!!!」

そんな敏夫の姿を見たとたん、夏野は思わず診察室の入り口で盛大に吹き出した。
声をかみ殺しながらも、腹を抱えてうずくまる夏野は笑い死に寸前だ。そんな夏野を見て敏夫の表情が苦くなる。

「…そこまで笑うことは無いだろう。」

よく見てみれば、お尻にもフサフサとした茶色い尻尾が付いていた。どうやら狼男のつもりらしい。

「だって、そのカッコ…ぶふっ!〜〜〜!!」

敏夫は笑い続ける夏野を見て溜息をつくと、椅子から立ち上がって夏野の方に近づいてきた。

「いい加減に笑うのをやめないといたずらするぞ。」

「それを言うなら、お菓子をくれないといたずらするぞだろ。」

漸く笑いの落ち着いた夏野が、うっすらと浮かんだ涙を拭いながら敏夫の台詞を訂正する。そして、先ほど診察室に通される前に看護婦さんから頂いたチョコレートを一粒、包みから出して敏夫の口へと押し付けた。

「甘い。」

「そりゃあ、チョコレートだからね。」

「夏野君は言わないのかい?トリック・オア・トリートって。」

夏野は、敏夫の言葉にニッコリと微笑んだ後、こう告げた。

「お菓子くれてもいたずらするぞ。」

敏夫の唇に自分の唇を合わせて、しばらくの間二人で甘いチョコレートを楽しんだ。


Happy Halloween!




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しきふぇすで配布させて頂いた、敏夏プチオンリーの方のチラシに書いたお話です。







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