恋心6



■後日(千枝視点)

「俺と陽介、付き合う事になりました。」

なんて衝撃的な告白を特捜隊メンバーが聞いたのは、放課後にいつものように集まった特別捜査本部こと、ジュネスのフードコートでの事だった。
真っ赤になって俯いて座っている花村の横で、これ以上ない位に神々しい爽やかな笑顔で、我らがリーダー葵敦貴は皆にそう告げた。
あまりの衝撃にメンバー一同何を言われたのかすぐには理解出来ず、口と目を大きく開いたまま暫し沈黙が続いた。
それは千枝も同様で、一瞬頭の中が真っ白になった後「ああ、リーダーの満面の笑みなんて初めてみたなー。」とか「超レアだから携帯で写真撮りたい。」とかぼんやり考えてしまった。
そんな中、一番始めに正気に戻ったのは直斗君だった。

「えっと、その付き合うと言うのは恋人としてと言う事でよろしいですか?」

直斗君の問いかけに、皆も弾かれた様に正気を取り戻し固唾を飲んでリーダーの言葉を待った。

「ああ、そうだ。」

あっさりと認めたリーダーの答えを聞いた途端、皆それぞれに驚き、騒ぎ始めた。
りせちゃんは「うそー!こんなに可愛いりせよりも花村先輩がいいだなんて〜。」と叫び、クマ君は「センセー!クマと言う者がありながら、なんでヨースケクマか〜。」と言って葵君の首に抱きついている。
完二君などは可哀想に真っ白になって固まっていた。
雪子と直斗君は結構落ち着いていて「やっぱり。」などと呟いていた。

「雪子と直斗君は気付いてたの?」

「んー、はっきりとって訳じゃないけど何となくね。いくら親友って言ってもちょっと仲が良すぎるな〜ぐらいには。」

「僕は探偵をやっているせいもあるのか、結構早い段階でそうなんじゃないかなと気付いてました。ただ、その時既に二人が付き合っていたのかどうかは分かりませんが、葵先輩の花村先輩を見る目がとても優しかったから……。」

二人の答えを聞いた千枝は正直ビックリした。
葵君と花村とは同じクラスと言う事もあり、それなりに一緒にいる時間も長かったし、仲良くもしていた。でも全然そんな事には気が付かなかったのだ。
自分は鈍いのだろうか?でも完二君とりせちゃんとクマも気付いて無かったみたいだし、二人が鋭いだけだろうか?

「男同士だし、祝福されない仲だって言うのは分かってる。でも……皆にだまっているのは違う気がして、……ごめん。」

今まで葵君の横で黙ったまま俯いていた花村が、突然顔を上げてそう言った。
その表情は葵君の事が好きだという気持ちとか、皆に申し訳ないといった気持ちとか、とにかく色々なものがごちゃ混ぜになった様な感じだった。
たぶん花村の性格を考えると色々な事を考えてしまっているのだと思う。
感情面に関しては結構不器用なヤツだから。
特捜隊の女性メンバーはきっと全員が一度は葵君に対して恋心と呼べるものを抱いた事があると思う。りせちゃん等は分かりやすいが、雪子や直斗君もきっと。
自分も例外に漏れずそうだった。まあ、告白などする前に「千枝は大事な仲間だから。」とかわされて、淡く芽生え始めていた恋心は儚く崩れ去ってしまったのだけれど…。
他人の事には敏感な花村の事だから、そんな女性メンバー達の事にも気付いていて『申し訳ない』なんて、バカな事を考えているのだろうと思う。
特捜隊メンバーの事がとても大切で、でも葵君の事も大好きで、そんな気持ちに挟まれてとても悩んだのだろう。
本当にバカだ。
そんな事気にしなくていいのに。

「バカ。」

千枝が花村に一言そう言うと、情けない顔をしていた陽介の体がビクリと震え、千枝を見た。他の面々も驚いた様に一斉に視線を千枝に向ける。

「花村って本当にバカだよね。」

「うっ…。」

ただでさえ情けない顔をしていた陽介は、千枝にバカバカ言われた事で今では泣きそうな顔になっている。

「本当にバカ。何でそこで『ごめん』なわけ?別にあんたは悪い事なんてしてないでしょ?」

「へっ?」

「正直ね、ちょっと悔しいなって思った。でも、あんたが私達の事を大切に思ってくれてるように、私達だって葵君と花村の事大切な仲間だって思ってるんだよ。」

「里中…。」

「だから謝んな。………おめでとう。」

最後に言った祝福の言葉は、照れくさくて少しぶっきら棒になってしまったが、花村の心にはちゃんと届いたようだった。
小さく「ありがとう。」と呟かれた言葉と共に向けられた花村の笑顔は、千枝達が見た事のない様なとても綺麗な笑顔だった。
その笑顔に一瞬ドキリとしてしまったのは誰にも秘密だ。

その後他の仲間達も次々に祝福の言葉を二人に贈った。
皆に囲まれた二人はとても幸せそうだった。
そんな二人をちょっとうらやましいと思った。




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番長と陽介以外の視点で書くのも楽しかったです。




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