七夕



今日で期末テストも終わり、学校から帰って着替えた後、早速武藤家へと向かった。
テスト勉強を理由に2週間ほど遊びに行っていなかったから、久しぶりに徹と一緒にすごせると言う事で自然に足取りも軽くなる。
いつものように玄関の扉を開けて「こんにちは」と挨拶すれば、夏野を迎える徹の声が1階の居間の方から聞こえてきた。
靴を脱いで上がり込み、ひょっこりと居間を覗いてみれば徹だけでなく武藤家の三兄弟が色とりどりの折り紙を使って何かを作っている最中だった。

「何やってるの?」

思わず入り口に立ちつくしたまま訊ねてみれば「わからないか?」と言って徹がニコッと笑った。その後徹が手招きをして自分の横に敷いてある座布団をポンポンと叩くのに従って、その座布団の上に腰を下ろした。
葵は水色の折り紙に熱心に切り込みを入れている。保は細く切った色とりどりの折り紙を輪にしてノリで貼り、それを幾重にもつなげて折り紙の鎖をつくっていた。
徹はと言えば緑色の折り紙に赤い折り紙を貼ってマジックで黒い点々を書きこんでいる。

「それ、もしかしてスイカ?」

「おう。どうだ、よくできてるだろ〜。」

自慢げに折り紙で作ったスイカを見せてくる徹に「あんた何処の小学生だよ!」と心の中で突っ込みを入れる。

「んで、そんなもの作っていったいどうするつもりだよ?」

今一つ徹達が何のためにこんな物を作っているのかわからない夏野が、今一度3人に訊ねると、3人とも作業する手を止めて「何でわからないの?」とでも言いたげに夏野を見つめてきた。

「夏野、本当にわからないのか?」

「わからないから聞いてるんだろ。あと、名前で呼ぶなって。」

こんな当たり前の事もわからないのかと言った感じで保に言われ、少しイライラしながら答える。

「ナツ、今日は何月何日だ?」

「は?7月7日だろ。………あ。」

ニコニコして「わかった?」と聞いてくる葵に「もしかして……七夕か?」と答えれば、3兄弟は「正解〜。」と言いながら手を叩いた。そんな無邪気な様子に呆れ果てて夏野はガクリと肩を落としてため息をついた。

「本当に何処の小学生だよ……。」

その後夏野も飾り作りを手伝わされた。
七夕飾りを作るなど小学生の低学年以来だろうか。その時も折り紙で一人一つ飾りを作り、一枚ずつ配られた短冊に願い事と名前を書くように言われた。
でも願い事なんて何を書けばいいのかわからなくて、結局名前だけを紙の隅に小さく書いて括り付けたのを覚えている。そんな事を思い出しながら、折り紙とはさみを握り締めてボーっとしていると、目の前に黄色い短冊が差し出された。驚いて顔を上げれば、徹が短冊を持って笑っている。

「ほい、夏野の分の短冊。ここに願い事書いて。」

「……俺の?」

「そう。どうした、キョトンとして。1枚で足りないならまだいっぱいあるぞ〜。」

「え、あ、いや。一枚でいい。ありがとう。」

徹から短冊を受け取ったものの、やっぱり願い事なんて何を書けばいいのかわからなかった。困って周りを見てみれば、皆思い思いに短冊に願い事を書きこんでいた。
書き終わった保の短冊をチラリと覗いてみれば「次の試合で勝てますように。」と書いてあった。今度、保が入っている部活の試合があると言っていたからその事のようだ。
今書いている途中の短冊には「彼女ができますように。」と書いていた。
葵の方を見ると短冊はかたくガードされていて見えなかった。
隣に座る徹を見ると、何やら真剣な顔をしながら短冊に願い事を書きこんでいた。
そっと手元を覗きこむとそこには『夏野が無事都会の大学に合格して、都会に帰れますように。』と書かれていた。そしてその横に小さく『あと、たまには帰ってきて俺に会いに来てくれますように。』とも書かれてあった。
驚いてジッと短冊を見つめていると、それに気づいた徹が慌てて短冊を両手で隠した。

「わっ!なっ夏野、人の短冊見るなよ!はずかしいだろ。」

徹は目元を赤く染めて視線を逸らした。
徹が騒ぎ出したのを見て、葵と保が何だ何だと徹の短冊を見ようと体を乗り出してきたので、徹は短冊を持って慌てて立ち上がり、縁側から外に出て誰にも見られないようにと笹の高い場所に短冊を括り付けている。
そんな徹に苦笑いを浮かべながら、夏野もペンを取り短冊に願い事を書きこんだ。

 ***

「徹ちゃん。」

「お、夏野も短冊できたのか。」

「うん。」

夏野も縁側から庭に下りて徹に声をかけた後、笹の前で何処に括り付けるか考える。

「願い事なんて書いたんだ?」

「徹ちゃんが俺の事お願いしてくれたから、俺も徹ちゃんの事書いたんだ。」

「俺の?」

「そう、徹ちゃんの。」

自分を指差して、目をパチパチさせている徹に悪戯っ子の様な笑みを向けて、持っていた短冊を徹の目の前に括り付けた。その短冊には「徹ちゃんがテストで赤点をとりません様に。」と書かれていた。

「今回のテスト、赤点無いといいね。あー、でもテスト今日で終わっちゃったから今頃お願いしても遅いかな?」

夏野がニヤニヤしながら徹に告げると、徹は「コノー、言ったなー。」と言いながら夏野を捕まえようと手を伸ばしてきた。夏野はそれをヒョイっと避けて、逃げ出した。
庭で追いかけっこをする二人の賑やかな声が、雲ひとつない青空に響き渡った。

今日の夜はきっと綺麗な天の川がみられるよ。




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恋人未満な二人って初めて書いたんじゃない?
無邪気にじゃれ合うお友達な二人もたまにはいいんじゃないでしょうか。





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