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まるで終わらない地獄のようだ 


「豆腐」
「誰……、ッ!?」

杏仁、豆腐、なんて素敵な名前なんだろう。笑顔を向けようとした豆腐の綺麗な顔立ちは俺の姿を見た途端、歪んだ。もっと歪んでいていい、その度にその表情は俺だけのものだと確信できるから。
だから俺をもっと見てくれ、そして歪んで抵抗して、負の感情を剥き出して、俺にぶつかってきてくれ。

「相変わらず、歪んでるね……ヘラ」
「我ながらそう思う」

そう言って嗤う。嘲笑、軽蔑、怒り、憎しみ。豆腐が俺に向けられる感情はほとんどソレ。笑顔だなんて信じられない。偽りの表情だと思えてくるから。でも、それでも、心は全く満たされなかった。満たされる時は、豆腐が俺を好きになってくれる、その時だけ。

「豆腐……、なんで俺を好きになってくれないんだ」
「君が影山の人間じゃなかったら見込みがあったかもな。……ま、無理だけど」


嘘。
こんな質問をしたいんじゃない、本当は豆腐に笑ってほしい。俺の心の底で彼の存在が大きくなってるのに、記憶の中の豆腐は笑っていない。笑ってほしい、俺だけの為に。
「そんなに欲しいならどこかに閉じ込めておけば良いのに」とアフロディが言っていた言葉が俺の頭の中を支配する。そうだ、閉じ込めておけば良いんだ。どこか、どこかに。

『でも、檻の中の鳥は何処にも飛べない事、知ってる?』
「――!」

ああ、そうだ。怖いんだ。翼のある鳥が翼を折られて飛べなくなってしまうように。豆腐が足を折られて走れなくなってしまう事が。傷つけるのが怖くて仕方ないんだ。
閉じ込めたら抵抗する。抵抗したら傷つけてでもおとなしくさせる。それが、俺にはできないんだ。
俺が好きなのは豆腐が自由に走り回っている姿。豆腐が、笑っている姿。閉じ込めて抵抗できないように足を折ってしまったら、もう笑ってくれない。

「大嫌い」

そして、いつもの言葉をまた言われる。俺は再確認するかのように、「愛してる」と言う。ぽろぽろ、ぽろぽろと醜い水を目から垂れ流しながら。

「「さよなら」」

何度「好き」と「愛してる」と並べても豆腐には伝わらないんだ。
ああ、貴方と愛し合える身分になりたかった。




まるで終わらない地獄のようだ。
(伝わらなくても伝えて)
(また泣いて)
(また貴方に会いに行く)



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