main

自分を振り返った先 


昔帝国に居た頃に総帥の所持品をよく隠していた事が功を成したのか、今俺の掌の上にはエイリア石が光に照らされて煌めいている。
事の発端はまず隕石が地球に落下した時から。10年前だったかに落ちた隕石は吉良さんが所有し、其処から採取出来るエイリア石で孤児院の子供達を使って"エイリア学園"を作った。"基山ヒロト"基、"グラン"を筆頭に5つのチームを作って一番下のランクから順番に日本を支配し始めた。時には学校を破壊し、時にはサッカーをする少年達の身体を壊す。そして時にはそのエイリア学園にいた子供達の記憶でさえも壊した。
非人道的な事であろうとそれらは全て、亡くなった吉良さんの息子である"吉良ヒロト"の為。と、吉良さんは思っていたけれど、エイリア学園の子供達は吉良さんの為にやっていたらしい。やり方に少々じゃないレベルで疑問はあれど、なんとも涙ぐましい献身っぷりだ。
で、その派生で総帥が率いる"真・帝国学園"が発足。吉良さんのお蔭なのか、いつのまにやら脱獄した総帥はエイリア石を借りて新しい帝国学園を作って"天才ゲームメーカーさん"達に勝負を挑んだ。結果はまあお察し下さいということで。少しでも総帥の力になりたかったなあと思ったけれど、その時既に修也に連れられて沖縄に来ていたので断念。だって修也がわざわざ俺が入院している部屋まで来て、「沖縄一緒に行こう」とか可愛い事言うから……。
いかん、フィルターが若干かかってた。えー、で、どこまで話したっけ。そうだ真帝国まで話したんだった。
実は派生はもう一個あって、それが"ダークエンペラーズ"。これはジェネシスが円堂と吉良瞳子さんに負け、吉良さんは戦意が完全に消失した。そんな吉良さんを見限った剣崎さんが発足させたチームだ。そのチームには沖縄から帰ったばかりの俺もいた。
俺はただ"総帥の為に強くなりたかったから"。どれだけ総帥が鬼畜な事をしようと、俺は総帥の為だけに強くなりたかった。たったそれだけの為にエイリア石を手に取った。
綺麗だったよ、力が込められたエイリア石は。こんな綺麗な石が人間の力を限界まで強くしてくれるのだと言うのだから、まさにチート兵器だ。一刻も早く強くなりたかった俺にはぴったりな代物だった。自分の身がどうなろうと構わない。ダークエンペラーズのユニフォームを纏い、エイリア石を首にぶら下げて現れた時、"天才ゲームメーカー"さんは面白いほど驚いてたなあ。アレは結構笑えた。でもどれだけエイリア石の力で気分がハイになっていても、あのぴっちりユニフォームだけは頂けない。アレは恥ずかしい。よく耐えたよな、エイリア学園の子達。
……ま、結局ダークエンペラーズも円堂に負けて終了。アイツにだけは絶対に勝てないだろうなと思う。無様に倒れている俺を起こしてくれたのは、意外にも"天才ゲームメーカーさん"だった。立ち上がった直後に「馬鹿者!」という罵りと共にビンタも頂いた。"天才ゲームメーカーさん"からビンタを貰ってもあんまり嬉しくない。俺マゾヒストじゃないし。
全てが終わって皆エイリア石を手放し、それらは全て警察に押収されたけれど俺のだけは未だに此処にある。うっかりというかなんというか、いつのまにか俺の手の中に残っていたのだ。最初に言った通り、隠し癖が発動しちゃったせいだと思う。俺は悪くない。
俺の掌の上で転がされ、弄ばれるこのエイリア石はもう力なんて残っていない。力の失ったエイリア石は、不思議な色をしたただの石だ。つまりあの時のように無限に湧き出る力の恩恵は貰えない。完全にオシャレなネックレスに成り下がっている。だから普通に身に着けていても問題は無いのだが、おいそれと付けれる物じゃない。俺の周辺はもはや"エイリア石恐怖症"みたいなものにかかってしまっているからだ。あの事件の事は忘れたい、黒歴史だ、見たくもないとでも思っているのだろう。特にダークエンペラーズの面々はその思いが顕著だ。風丸とかあからさまに話を逸らす。お互い触れてはいけない領域だとわかっているから、それ以上は踏み込むつもりはない。
とかなんとか思考していると、我が家のチャイムが間抜けな音を鳴らして来客の訪問を告げた。2LDKのマンションに住んでいるが、住民は俺1人しかいない。一応孤児院の生まれで帝国から追い出された後、行く場所も無いと思ったら総帥が用意してくれていた。口では厳しい事言っていたが、なんだかんだで優しい人だ。総帥は俺より"アイツ"の方が好きだけど。クソッ、アイツの事考えてたら腹が立つ。

「はいはい、ちょっとまってくださーい」

そんな事考えている内にチャイムはまだ鳴り響いている。今日は来客の予定は無い。いつもは修也が大体この時間に来ているが、彼はきっちりと連絡してくるので彼はありえない。というかそもそもアイツ、今ライオコット島にいるんじゃなかったか。じゃあ一体誰だ。
不信感を抱きつつも、俺は玄関の扉を開けた。

「どちらさまでしょうかー」

と言って開けた扉の先には、あの奇抜なドレッドヘアーが見えた。思わず扉を閉めた。ついでに鍵も閉めた。

『ちょっ!? ちょ、ちょっと杏仁先輩開けてください!』
「俺の知り合いにドレッドヘアーのサッカー少年はいません!!」
『誰だかわかってるんじゃないですか! とにかく杏仁先輩、この扉を開けてください!』
「お断りします! さっさとお帰り願えませんか!!」
『それこそお断りします! さっさと開けて頂けませんか!』

ぎゃいぎゃい玄関付近でどうしようもない言い争いを続けていた。隣近所の皆さん、申し訳ありません。全てはこの扉の向こう側にいる"天才ゲームメーカーさん"がいけないんです。俺は悪くない。あ、今日これ二度目だ。
息も絶え絶えに、お互い疲れてしまったのか言い争いも止まる。これで諦めるだろと思ったが扉の前のアイツは諦めてなかったらしい、突然玄関の前で座り込んだ物音がした。

「……お前、何やってんだよ」
『開けてくれるまで待ちます』
「ちょ、待てよ! お前仮にも日本代表だろ!? こんなアホな理由で風邪ひいて体調崩したらどうする!」

と叫んで扉を開けたのが運の尽き。アイツは玄関の扉と壁を押さえ込み、無理矢理扉を大きく開け放った。アイツはどれだけ俺の家に入りたかったのかと。突然の事に対応できなかった俺は、玄関の扉の動きに合わせて前に倒れ込んだ。床と猛烈なキスをすると思ったが、丁度目の前に立っていたアイツに抱きとめられたお蔭で事なきを得る。助かったと思うが、助けてくれたのがアイツなのであまり嬉しくない。

「……熱烈ですね」
「うるせーよ。さっさと放しやがれ」
「杏仁先輩から飛んで来たんでしょう」
「テメーが玄関を無理矢理開けなきゃ飛ばなかったんだよ、アホ」

"天才ゲームメーカーさん"を突き飛ばして体制を立て直すと、後退りをして扉を閉めようとしたが当たり前のようにアイツは玄関に入って来ていた。なんで入って来るんだ、帰れって言ったろ。俺は一つ溜息を吐くと「用件が終わったらさっさと帰れ」と伝えてリビングに戻る。横目でアイツを見てみると、真後ろに寄り添って付いてきていた。ズカズカと勝手に人の家に上がり込んで不躾な奴だ。こいつの父親はちゃんと教育して下さい本当に。
真後ろの人物は無視してソファーに身体を埋めると、すぐ隣にアイツが座ってきた。ちょっと待て。

「なんで俺の隣なんだよ」
「此処しか座る所無いじゃないですか」
「あるだろ、床が」
「冷たいです」
「夏だから大丈夫だろ。"天才ゲームメーカーさん"は日本代表に選ばれるほど身体丈夫なんだから」
「……」
「……」
「……関係無いです」

なんだその間は。よくわからんが、とりあえず来客は丁重に取り扱わなければならない。心は全くこれっぽっちも籠めるつもりは無いが、コーヒーでも出してもてなす。コーヒーを受け取った"天才ゲームメーカーさん"は軽くお礼をしてマグカップに口をつけた。……のは良いが、とても微妙な顔をしている。はっはっは、お前が甘党なのは知っているんだ。だからこそあえて何も入れなかった。ザマーミロ。
得意げな顔の俺にイラっと来たのか、俺を叩こうとアイツの腕が伸びる。俺は軽くそれをかわすと、改めてコーヒーに口を付けた。うん、いつものコーヒーだ。

「……杏仁さん」
「……」
「これ、なんですか」

隣の存在を完全末梢して寛いでいると言うのに、人の部屋で何をしてるんだコイツは。と思って振り向くと、アイツの手にぶらさがっているのはさっき俺が弄んでいたエイリア石だ。アイツの眉間にいつも刻まれている皺が更に深くなったような気がする。ああ、こりゃ結構怒ってるな。

「何って、エイリア石だけど」
「もしかして貴方また……!」
「何を勘違いしてんのか知らねーけど、もう力も何も残ってねーよ。ただの紫色の石だ」
「そ、そう……ですか……良かった……。また杏仁先輩が敵になったらと思うと、生きた心地がしませんよ」

何処かほっとしたように息を大きく吐き出す"天才ゲームメーカーさん"。しかしエイリア石を手放さない。胸に当てて、何か考えているようだ。というかなんでコイツが俺の事を心配してくるのか全然わからん。あとカルガモの子みたいに背後についてくる理由もわからん。なんかしたっけ俺。

「……あのさー、なんで俺に構うワケ? 円堂や修也、佐久間や不動の方がよっぽど"天才ゲームメーカーさん"の相手が務まると思うけど?」
「いいえ、杏仁先輩が一番ですので」
「気色悪い、大体接点なんてそんなもん無いだろ。お前は"天才ゲームメーカー"、俺は"元天才ゲームメーカー"なだけで」
「それですよ」

そう言って"天才ゲームメーカーさん"は俺の両頬を抑えて無理矢理上を向かされる。向いた視線の先には"天才ゲームメーカーさん"の顔が見えた。いつのまにゴーグルを外したのか、緋色の瞳にはちゃんと俺が映っている。

「貴方と俺は、よく似ている」

俺、この眼あんまり好きじゃねーな。赤くて、紅すぎて、時折不安になる。俺の心の中を全て見透かしているようなこの眼。嗚呼見ているだけで嫌になる。紅い眼は弧を描いて微笑んだ。何がおかしい、俺の何処が面白いと言うんだ。

「もし俺が道を踏み間違えたら……まさしく貴方のようになっていたかもしれませんから」
「イヤミか」
「いいえ、でも俺はちゃんとエイリア石から貴方を救えたでしょう」
「救ったのは円堂だ」
「"掬った"のは円堂ですとも。でも貴方を"救った"のは俺です」
「……ワケわからん」
「わかってください」
「お前の表現は分かり難い」
「今はまだ、分からなくて良いですよ」
「どっちだ」

俺のツッコミを無視するようにして"天才ゲームメーカーさん"は席を立った。これから帰るつもりか?用件が何だったのか知らんが、もう帰れ。そして二度と来るな。

「ああそうだ、用件を思い出した」
「今ので終わりじゃなかったのかよ」
「残念でしたね杏仁先輩」
「イヤミか」

俺がいる方向に振り返った"天才ゲームメーカーさん"は1枚の封筒を懐から取り出し、俺に差し出した。"天才ゲームメーカーさん"から奪い取るようにして封筒を手に取り、慎重に封を開ける。入っているのは1通の手紙と1枚の特殊用紙で印刷された紙。まず手紙の方から見てみるとそこには簡潔に1文だけ"来い"と書かれていた。訳が分からないのでもう1枚の方の紙を見ると、航空券のようだ。行き先は"ライオコット島"。……これはライオコット島に来いと言う事なんだろうか。っていうか飛行機の出発時間が結構近い。もうすぐ昼だけどこのチケットに書いてある出発時刻、夕方頃じゃねーか。
顔を上げると、したり顔の"天才ゲームメーカーさん"と目が合った。腹立つ、殴りたい。

「俺は久遠監督から"ライオコット島に杏仁豆腐を連れてくるように"と言われているんですよ」
「ああ……だから日本にいるんだな。てっきり代表から外されたのかと」
「俺は天才ゲームメーカーですからそれはありえません」
「うっわ腹立つ。そういうの自意識過剰って言うんだぜ自意識過剰」
「貴方が"天才ゲームメーカー"と呼んでるんでしょう」
「他にも呼んでるヤツいるだろ」
「とにかく、行きましょう」

そう言って"天才ゲームメーカーさん"は俺の手を引いて歩き出す。なんかもう色々とおかしい。なんで久遠監督が俺を呼ぶのかわからないし、"天才ゲームメーカーさん"が俺に構うのもわからない。今日はわからない事だらけだ。
とりあえず俺は"天才ゲームメーカーさん"の手を振り解いてエイリア石を取り返した。別に必要無いけれど、お守りには十分な代物だろう。なんだか呪われてそうではあるが、まあ勝つ為ならそれも良いかもしれない。

「……ただの石だって言ってたじゃないですか」
「ただの石だぞ? でもお守りには丁度良い。"天才ゲームメーカーさん"の事だから、ライオコット島じゃなくて別の場所に連れて行きそうだからな。そうならない為にエイリア石に祈っとく」
「そんなの杞憂ですよ」
「怪しいな」
「お望みならしますが」
「できんのかよ」

半分本気、半分冗談で言った事だったがアイツが言うにはやればできるらしい。流石鬼道財閥はやる事が違うな。まあそんなのどうだっていい。アイツが少し困ったような顔をしているのが、俺の笑いを誘った。やがて溜息を吐くと諦めたように再度俺の手を取った。どうでもいいが手を繋ぐ必要はあるのか。男2人が手を繋いでても虚しいだけだろ。

「……ま、良いです。いつかそのエイリア石を手放す時が来たら、"鬼道"として貴方を迎えに行きます」
「来なくていいよ気色悪い。そう言われたらエイリア石手放したくなくなる」
「じゃあ手放しても手放してなくても、イナズマジャパンが優勝したら迎えに行きます」
「来なくて良いって」
「その間までにその呼び方、改めて下さいね」
「断る」

繋がれた方の手をぶんぶん振り回しながら、もう片方の手で軽く旅行の準備をする。向こうで何をするのか分からんが、とりあえずいつでも運動できるようにジャージとか持っていこう。あとは何が必要だろう、と考えあぐねてると背後から「勉強道具でも持っていったらどうですか?」と声がかかった。はいはい持ってけば良いんだろ、持ってけば。
ある程度準備は整って荷物を玄関に置くと、ふと手が繋がったままの状態だった事に気付いた。

「……いつまで手繋いでんだよ」
「さあ?」

繋いだ本人もよくわかってないらしい。なんなんだお前。
そんなグダグダとした(嫌悪感丸出しの)会話をしつつ、俺は日本を発った。昨日までテレビの向こうの場所だと思っていた場所に行けるのだと思うと、心なしかワクワクする。絶対"天才ゲームメーカーさん"の前では言わねーけどな。



戻る


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -