カタン…



自席の椅子をひくと再度「おはようさん」と笑いかけられた。
でも、今の白石はさっきのような爽やかスマイルではなく、ニヤニヤなんて表現がぴったりのイヤな笑顔。



「なつめ、いい友達できてんなあ」


ああ、どうして皆こいつの本性に気付かないのか。



「…私に友達なんていない」


「何で私がこんな冴えへん子と一緒に登校なんか、っちゅう顔しとったでー」


「…それは白石がそう言う目で見てるからでしょ」


「まあそれもある」




ちょっとちょっと、お嬢さんたち。今の発言をちゃんと聞いてよ。
私はあくまで『ちょっと』冴えないとしか言ってないからね。



幸か不幸か、授業前の教室は賑わっていて誰かが気付くはずもなかった。

昔からそう。私が白石を貶すと皆私を気が狂った奴だという風に見る。

本当にわかってない。




「なつめなつめ」


「…何」


「俺なつめんことは友達やと思っとるで」



バカみたいだ。



きっと私の気持ちなんて全部読まれてる。


だって、ちょっと、不覚にも感動してしまった。

らしくもない。




「ばっかじゃないの…」


こんな言葉しか紡げない。



「なつめはすごいよな。勉強出来るし、」


「勉強しか取り柄ないから」


「ええ奴やし」


「…っな」

「あ、照れた」


「照れるか!むず痒いわ!」



「……のに、男経験なし…くくっ」


「………それ、バカにしてる?」


「いーや、全力で哀れんでる」




こんっの男……!

結局最後のが言いたかっただけでしょ?
騙されたんだ!
ちょっと感動なこと言われたからって信用するんじゃなかった…


いっそムカつく顔面を一発本気で殴ってやろうかと考えていると、どでかい声がそれを阻止するかのように入ってきた。




「そういうことなら話は早いっちゅうねん!」



至近距離でいきなり叫ばれたため肩が跳ね上がった。

どんだけデカイ声を出すんだ。
発声練習なら余所でやってくれ。



声の主である疎ましい(というか喧しい)金髪は、私と白石の席の斜め後ろで仁王立ちしていた。



――勝ち誇ったような笑みを浮かべて。





うちのテニス部はどや顔が得意らしい。



私はその場から逃げたくなった。

何か、嫌な予感がする。






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