「言っときますけど、用件が謝罪だけならやめて下さい」


そう言った瞬間、少しなつめ先輩の表情が固くなった。

あー、これじゃ怒ってるように思われるか。


実際のところ怒りとかの感情は無い。
確かに何でこっちがそこまで気を回さなあかんねんっていう気持ちは無いわけじゃないけど、まあ、もとはといえば自分のせいやし。



「別に怒ってませんから、っちゅうかこっちも泣かせるぐらい酷いこと言ったんやから、」

「あ、違うから」


「え」



「財前君の言動には確かに今までの人生でもトップ3に入るぐらいムカついたんだけど、」

「…そっすか」



さすが、可愛くないですね。


「でもあの時はそんなこと忘れてたよ」



おかしくないか?

あの時っていうのは流れからして王様ゲームのときやろう。

忘れてた?
じゃあ泣かせる理由が他にあった?


俺は何もしてへん、はずや。



「だから、財前君のせいじゃないから」


ちょうど俺の思考をなぞるようななつめ先輩の言葉で少しは気が楽になったが、まだ腑に落ちない。

というか、昨日一日罪悪感で一杯やった俺は何やったんや。
だんだん自分が被害者に思えてきた。



「生理的に受け付けんかったんとちゃいますか」



皮肉まじりに言ってみると、なつめ先輩は笑った。俺の苦悩も全く知らずに、俺がずっと望んでいた否定の言葉を簡単に口にする。何か理不尽だ。




「ていうかどっちかと言うと好きかも」


「………は?」


何言ってんねんこの人…好き?誰が、誰を。



「財前君はっきりしてるし。まあそこがたまに傷だけど。あたし苦手なんだよね、女子によくあるドロドロした陰湿なの」


「…なつめ先輩友達います?」

「ん、いない」

「即答ですか」


「白石は…私のこと、友達って言ったけど…」


ハキハキと喋っていたなつめ先輩が途端言葉に影を落とす。

何か、この人を少し理解できた気がした。




「あの人は難攻不落やからなぁ…」

「ん?」


「こっちの話です」



きょとんとした表情でこちらを見上げるなつめ先輩は、やっぱり普通の女だ。




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