戻って来たときは謙也が意外にもバラードをしっとりと歌っていて、皆聴き入っていた。


…席、どこに座ろう。



ご丁寧に照明も暗めにしているおかげで、席が見にくい。


白石の横と、あの財前君が好きらしい女の子の、横…



さすがに間近であの刺すような視線を感じたくはないので、もちろん前者である。



「お帰り。えらい遅かったなあ」


いち早く私が戻って来たのに気付いた白石が気の抜けた声で聞いてきたから、返事の代わりにわざとらしく眉間にシワを寄せた。

本当にちょっとムカついたのもあるけど。



「そんな顔しなや。ほらオレンジジュース頼んだるから」


「子供扱いすんな」


「いらんの?」

「いるけど」



謙也が歌い終わるとほぼ同時に、ドアが開いた。

空いているスペースは一人分しかないのだから、もちろん入ってくる人物も見当をつけるのは容易い。



頬、腫れあがってたりしたらどうしよう。



恐る恐る顔を見上げた。



「光君お帰りー」
「待ってたよー。光君の歌もっと聴きたーい」

「マイクあるよマイク」


「…どうも」



テンションは明らかに低いものの、頬はほんのり赤くなっている程度であまり目立たなかった。

とりあえず、良かった。




「財前、そろそろラストやからなんか飲むかー?」



白石の言葉に何か複雑な気持ちになった。そっか、もう終わり。終わりなんだ。





「あのさ、」



「ん?」


「王様ゲームとか、しないの?」




…………………。



受話器に手を当て、注文するまさにその寸前の姿勢で固まった白石は口がぽっかり開いたままである。

それだけじゃなく、他の皆も、自分の曲が流れだしてる財前君も、こっちを見て目を見開いて停止している。




「え、な、何」


物凄くいたたまれない気分になってきた。




ぶっ、と謙也がまず初めに堪えきれなくなったのをきっかけに皆一斉に笑いだした。



「…な、」


何がおかしいの。



「…自分ノリノリやん」

ひとしきり笑い終えた一氏君からのツッコミを受けて、急に恥ずかしくなった。



確かに、最初あれだけ帰ると言い張っていたにしては楽しみすぎじゃないか。

しかも王様ゲームというチョイスがまた、下心が見え見えというか何というか。



顔に熱が集中してきた。
やばい、やってしまった。



「やっぱやめ「ええやん。やったら」

「…え」



「今日は一応なつめのための合コンやねんから」


白石にしては(私に対しては)珍しく、持ち前のイケメン爽やかスマイルで微笑まれても今は私の羞恥を煽るだけだ。

…わかってやってるなら相当タチが悪い。



「いや、言ってみただけだし。別にやりたいと思ったわけじゃないからね?」



………なんか余計言い訳がましい。

今日は、理性的な判断が出来ない日だとつくづく思った。






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