みんなの視線が注がれる中、その先には4枚のESPカード。
果たして超能力は本当に存在しうるのか...。
「よぉ、次オレ様の番な?」
しんと静まり返った中、突然声を発したのは燃堂くん。おっおと言いながら、残り4枚になったカードを真剣な眼差しで見つめている。
一枚一枚めくっていてはESPカードの意味がないのだけれど。一枚ずつ除外してゆけばゆくほど確率も上がって、最早これは透視ではなくただのくじ引きと同じ。
しかし、クラスの誰もこのことに対して異議を申し立てないところを見ると、気にも留めていないのか...はたまた気付いていないのか。
そんな雰囲気で私が指摘をして場を荒立てても仕方がない。私は口をつぐんで燃堂くんを見守ることにした。
「さっきは星だったから...お?次は確率的にみて丸だろ...?」
何の確率だろうか。彼の中の確率論をぜひ聞いてみたいところだけれど。きっと深くは考えていないのだろう。
燃堂くんは勢いよくカードをめくると、その裏に書かれていたカードは丸。再びクラスメイト達から歓声が上がった。
「残りはあと3枚かー。次は相棒の番だぜ。」
燃堂くんの声に歓声がピタリと止むと、クラスの視線は一気に楠雄くんの方に集中する。
楠雄くんはやれやれと言うように、小さなため息を吐き出した。まるでカードを当てることが茶番だとでも言うかのように。
楠雄くんはカードを選ぶ前に指で机に何やら文字を描いて行く。その文字は波。どうやら波を引くようだ。
そして波を描いた指がゆっくり一枚のカードへ伸びて、躊躇いもなくめくられてゆく。
めくられたカードに書かれていたものは波。
またまた的中。先程より大きな歓声が上がっている。みんなかなりの興奮状態にあるのだろう。まだ朝のHRも始まっていない時間帯であるのに、元気溢れすぎではないだろうか。
最後に残ったカードはあと2枚。
絵柄は十字、もしくは四角の二択...確率で言うならば50%。
「最後は平凡な。」
「...え、わ...私?」
燃堂くんの一声に今度は私に全員の視線が注がれた。笑顔で何てこと言ってくれるんだ、この人は!
確かに二択であれば、当てるのもさほど難しくはないだろう。しかし、それは世間一般から見てだ。
私の運は今までの経験則から、他の人達に比べてかなり低い方だと思う。じゃんけんも弱いし、くじ引きなんていいものを引いた記憶が一度もない。
私は今までの人生、運を努力でカバーしてきた人間だから本当に確率だけの勝負になってしまうとどうしようもなくなってしまう。
単純に引くだけならいい...引くだけならば。
しかし、ここはそうではない。今までみんなが繋いできたバトンは今、私一人に託されている。
「フッ、あとは任せたぞ平凡...お前ならできる。」
「平凡ー!当てろー!」
海藤くんの声に続いてクラスメイト達からも声援がポツリポツリと聞こえてくる。
ついには手拍子と共に平凡コールが、教室内に巻き起こり始めるではないか。
「平凡っ!平凡っ!平凡っ!」
これはもう、絶対に外すことはできない。
ここでもし引き当てなければ、この先の平穏な学生生活に支障を来す恐れがある。そうなれば、今まで積み重ねてきた平穏な日々は崩れ、明日からは空気の読めない存在として扱われることになってしまう。
そんな生活、とてもじゃないが私には耐えられない。