第54χ 乙女の恋事情@




ドウシテコウナッタ。
今日は知予ちゃんとお茶でもしよう前々からしていた約束を果たすべく、普段よく利用しているファストフード店に入ろうとしたところ照橋さんと遭遇してしまった。
ばったりでも会ったからには別の席に、なんて言うわけにも行かずに三人でボックス席に座っている。

こういう場合にどう対処すべきか。
知予ちゃんと照端さんはあまり仲良いと言う関係でないみたいで、沈黙が気まずいのか二言、三言の会話をするも中々続かない。私はそれを黙って聞く側に徹している。全く苦でない。むしろ、考え事する時間が増えて喜ばしいことだ。普段、4人で行動していると考え事をしている余裕なんてないし、私にとって貴重な時間だ。

「あ..ア○ノミクスについてどう思う?」

沈黙を先に破ったのは知予ちゃんだった。高校生にしては中々渋い話題をチョイスしてくるところに少し驚いてしまった。金融政策、財政政策、成長戦略と3つの矢を柱にした政策群だが、評論家、国民の間でも成功の可否は未だに論じられており、今後も動向に目が離せない話題ではあるけれど...私の意見としてはまだまだ理解が及ばない範囲で勉強してから答えたい話題かな。
一方、話を振られた照端さんはキョトンとしていた。確かに高校生には少しヘビーな内容だったと思う。残念。

「松崎マジ激おこプンプン丸だよねー」

知予ちゃんとの会話を蹴ってしまった罪悪感からか、今度返してきたのは照端さん...ごめん、そっちはわからないや。

そんなこんなようやく見つけた共通の話題は沖縄修学旅行。私も最近までずっと忘れていてハッとしてしまった。
楽しみだねと共感し合う2人の表情はなんとも幸せそうな顔をしている。恐らく、想い人とどうするのかを頭の片隅で想像でもしているのだろう。見ている私も何だかほっこりした気持ちになる。
しかし、突然妄想に笑みを浮かべていた2人の表情が再び探り合いするように瞳鋭くなった。

「心美ちゃんて...好きな人とかいるの...?」

またもや最初に切り出したのは知予ちゃん。それに過敏に反応するかのように咳き込む照端さん。
ここでようやく私は理解した。映画館でも感じたあの感覚は...照端さんは楠雄くんのことが好きだってこと。今までは不確かだったけれど、ようやくここで見えた。

「夢原さんにはいるの...?好きな人...」

今度聞き返したのは照端さん。知予ちゃんは照れながらも素直に頷いている。彼女の好きな人は楠雄くんなのは知っているから驚きはない。

つまりこの席には楠雄くんが好き同士が集まる席な訳で、嬉しいような嬉しくないような...なんとも複雑な気分になる。複雑な気分だし私からも一発撃たせてもらおう。飲み物を飲みつつ、さりげなく。

「さいき...んっ、修学旅行も近いせいか恋の話題でクラスも賑やかだよね。」

2人とも飲んでいた飲み物を見事吹き出した。必死に誤魔化しているけど隠しきれていないよ。ふむ、こういう弄り方も案外楽しいかもしれない。代わりにこっちに矢が向けられるのを忘れてはならないのだけれど。

「そういう平凡さんの好きな人っているの?」
「私もそれ気になってた!言っちゃいなよ、相談に乗るよ?」

ライバル同士だっていうのに言えるわけがない!
ここは愛想笑いではぐらかすか、最終手段はお手洗いに駆け込んで体制を立て直すかのどちらかだ。えーっと、言葉を引き延ばしつつ瞳を泳がせながら2人の気を引くことができるような話題を必死に探す。





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