夏休み...義務である学校もなく、1人で好きなだけ好きな事が出来る学生だけの特別な期間。私はその特権を日々行使してずっと家の中で本を読んだり、テレビを見たりと有意義な時間を過ごしている。
しかし、家にいるということは普段学校に行って出来ないことをしなければならなくなる。一般の家庭なら大体そうだろう。私は朝からお母さんに叩き起こされて、庭の掃除をしている。
眠い。昨日は遅くまで推理小説を読んでいたせいであまり眠れていない。自然とだらしのない欠伸が出てしまう。これではいけない、早く終わらせて続きを読まなければ。まずは玄関前のほうきかけから。
掃いてみれば木葉やら砂利が多くて、思いの外汚れていることに気付く。掃く度に面白いように綺麗になるものだから段々楽しくなってくる。たまの掃除も悪くないかもしれない。
入り口から門にかけてホウキをかけていれば、向かいから誰かが出てくるのが見えた。あれは楠雄くんのおじさんとおばさん。
朝だが今は夏だ。半袖一枚でも暑いというのに、2人とも粧し込んでどこかに出掛けるようだ。2人と目が合えば、会釈して返す。
「朝からお手伝いなんて偉いわね。そうそう、私達これから出かけちゃうから、くぅちゃんのことよろしくね?」
「はぁ...わかりました。お気をつけて。」
彼が私のお世話になる事があるだろうか。むしろ、毎回逆のような気がする。そんなことを考えていると、2人は相変わらずラブラブっぷりを見せつけながら出掛けてしまった。数ヶ月前はあんなに仲悪そうだったのに何があったのだろうか。仲睦まじきことは良きことかな...なんて。私もいつか相手ができたら、2人のようになれたらと思う。...可能であれば楠雄くんと。2人の背中を微笑ましげな瞳で見つめながら、私は掃除を再開した。
時間も正午に差し掛かり、粗方庭の片付けを終えて縁の下で休憩をとる。お母さんの入れてくれた麦茶は冷え切って、火照った身体を内側から冷やしてくれる。喉の渇きも癒えてゆく。今日はよく働いたな、私。
午後はようやく待ちに待った自由時間だ。
本を読むのもそうだが、また何か書こうかと思案しているところ、ふと思い出したのは楠雄くんのこと。
どうしてか彼のことが気になって仕方ない。それはいい意味ではなく、悪い意味でだ。これが虫の知らせというものなのだろうか。
気になるけれど、今行ったら迷惑だろうか。むしろ不自然ではなかろうか。楠雄くんに限って危ない目にあうわけがないのは分かりきっていることだけれども、気なってせっかくの自由時間も満喫できそうもない。
物は試しと訪ねてみて何もなければ帰ればいい。そう1人で納得すると、向かいの家へと向かった。