みじかいはなし | ナノ

▼空飛ぶクラスメイト

ようやく本日の締めの授業である英語という難関を突破し、所属する図書委員の仕事もテキパキ終えて、帰り際に司書さんに軽く挨拶の声をかければ意気揚々と図書書を出る。
今日は欠かさず見ているドラマ、渡る世間は難事件ばかりの山場が放送されるからだ。頭脳明晰だがコミュ障なフリーターの新一郎が務める中華料理屋で起こる殺人事件、一体誰が店主を殺害したのか...放送期間3年の月日を経てようやく真相が、今日の夕方に解き明かされる!
3年間欠かさず見続けてきたファンとしては、絶対にリアタイは死守したいところ。1秒足りとも遅延は許されない。

降車口で上履きから靴を履き替えて、この日のために綿密に調査を繰り返して導き出した最短距離で帰路を歩く。
この時間なら放送の30分前にはテレビの前にはつけるはずと、念のためスマホの画面で時間を確認しようと取り出すと、黒い画面に反射する見慣れない小さな影が映った。
確認をしようと無意識に空を見上げると人が飛んでいるのが見える。しかも1人ではなく小さな子供のようなものを背負っている。目をよくよく凝らして見えてくるのは、夕日に照らされて橙色に染まりかけてはいるものの、あれはエメラルドグリーンの制服。あの独特の色の制服はうちの制服しかない。それに加えてドピンクの髪色といえば。

「...斉木、くん?」

人が空を飛んでいるという非現実的な事実を何とかして頭の中で認識しようと、自身の頭上を飛ぶ人物の名を呟いてみればかち合う視線。空飛ぶ斉木の表情が一瞬にして変わったのがわかった。
普段はクールで表情が滅多に変わらない彼だから、変わればすぐにわかる。目を開いて、見たことないものに遭遇したかのように驚いている。こっちの方がその心境なのだけれど。
突如、私の長らく眠っていた動物的感が逃げろとアラートをあげる。

私は本能が鳴らす警鐘に従うままに全速力で斉木くんの飛ぶ方向、つまりは私の家の方へ走り出した。なんだかわからないけど、見てはいけないものを見てしまった。心はその感情に支配されて走る以外は何も考えられなかった。
必死に逃げていると脳内の片隅で斉木くんの制止の声が聞こえていた気がするけど、きっと気のせいだ。私は斉木くんの声を知らないし、あの距離で聞こえるはずがない。

へとへとで家にたどり着き、振り返って見るも斉木の姿はない。どうやら追いかけては来なかったようだ。背中に乗せていた子供のような何かのおかげだろうか。

結局放送時間には間に合ったものの、その事ばかりが気になってこの楽しみしていたドラマは頭に入って来なかった。結末は常連の重田さんだった。

続く?

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