▼運も実力のうち
「あけましておめでとうございます。」
「あぁ、おめでとう。今年もよろしく頼むよ。」
軽い会釈混じりに新年の挨拶をした目の前にはネイビーのPコートを卒なく来こなす優等生の姿。言葉こそ柔らかいが相変わらずの無表情でこちらを見下ろしている。
無表情ではあるがPコートの少年は端整な顔立ちをしているため、初詣に来た女子達が通りすがりに格好いいだとか、芸能人かなとか、色を含んだ声が絶え間なく聞こえてくる。この光景は慣れたものだが、気分のいいものでは決してない。
コラ、彼は確かに美形の部類に入るのだが芸能人じゃないのだからあまり褒めるのはやめていただきたい。私が公私ともによろしくさせてもらっている憎くきライバルなんだぞ。
普段、彼は京都の学校に通っているため会うことは中々出来ないが、正月ともなれば帰省のためにこちらに帰ってくるのだ。私はずっと夏休みの別れからこの機会を狙っていた。今度こそ彼に勝つ手段を見つけることができたからだ。
憎くきライバル(長いので今後Pとする。)と共に人混みを掻き分けながら参拝をするべく、神社の本堂の前へ。勿論、私の願い事は隣にいるPに勝つこと。
早々に祈願を済ませてふと相手がいる方へ顔を向ければ、まだ祈願しているのかずっと手を合わせたまま目を閉じている。清々、私に勝たせてくださいと神に乞い願うがいいっ!
それにしてもこうやって改めて見ると女子ズが騒ぐのも納得出来るほどに横顔も整っていて、格好いいと不覚にも思ってしまった。肌も白いし、スタイルも抜群で頭脳明晰、運動能力も申し分ない。
...憎いのに褒めちぎってどうする!
それにしても祈願が長い。一体何を神に願っているのだろうか。願わなくてもすべて自力で叶いそうなものだけれども。
ようやくPの祈願が済んだところを見計らっていざ決戦場へ。
「今日こそ征くんに勝つ方法見つけたんだ。今年は私の初勝ちでスタートさせてもらうからよろしく。」
「あきこ...君は幾度となく僕に勝負を挑んで、僕に一度も勝ったことないのに妙な自信だな。で、何で勝負するんだ?」
社務所で巫女さんに500円を払ってくじを引く。
くじ引きの箱から無作為に選んだくじをPに見せつけてやった。勿論、ドヤ顔で。
そう、勝負はくじ引き。
運も実力の内というからこれでPより良いものが引ければ私の勝ちになるということ。不謹慎だとか言われそうだが、私の頼みの綱は運しかないのだ。その意図を汲み取ってかPもくじを引いてくれた。
「準備はできたみたいだね。それじゃ一緒に開くから...いっせーのーせ!」
同時に開いたくじを見れば、大吉と大凶の文字が目に飛び込んでくる。私の握っているくじは...大凶。
また、今年も負けたのだ。本年初負けを期したのだ。当たり前だと表情一つ変えないPを悔しげに見上げるとピクリと眉が微かに動いたのが見えた。
「あきこ...何か不満そうだな。言いたいことがあるなら少しばかりなら聴く耳を持つのもやぶさかではいよ。」
「結構です、流石赤司様です。運も味方につけてしまうなんて貴方は神か。」
捨て台詞と共にムスッとした顔をしたままくじを所定の場所に括り付ければもうここには用がない。
赤司の影を踏むように彼の後を追いつつ、私達は家に向かって歩き出した。
悔しい、実に悔しい。
何とか悔しげな顔ならずとも無表情以外の顔をさせてやりたかった。不意に閃きが脳内を過ぎる。私に思いつくままに咄嗟に口を開いた。
「くじ引きは負けたけど、私は征くんに勝てるものあるんだから。」
その言葉にトボトボと歩く私を待つように脚を止めてくれた。振り向きはしないけれど。
「それは興味深い意見だ。何で僕に勝てるんだ?」
「どれだけ征くんを好きかってこと。」
「...残念だな。その勝敗は既に上がっているはずだ。」
振り返り様に見せた不敵な笑み。
その表情があまりにも美しくて、私はもう認めざるおえなくなってしまった。
結局、私は恋愛に対しても彼には勝てないのだと。
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