みじかいはなし | ナノ

▼君の隣にいるはずだったのに

嗚呼、ψは投げられた 第40χより
※BADエンド注意

放課後、楠雄くんに呼び出されて屋上に来ている。
真冬の冷たい風が吹く度に身震いが止まらなくなる。ちゃんと防寒着来てくればよかった。

彼が話したいことは大体予想がつく。彼の持つ超能力者のことだろう。今までみんなに隠して来たということは知られたくない事実で、それを知ってしまった私を口止めするつもりなのか、はたまたその超能力を使って何かされるかはわからない。
私としては楠雄くんの望むようにしてもらって構わないと、覚悟を決めて来ているつもりだ。

重たい鉄の扉が開いて楠雄くんがやって来た。
向かい合うような形で彼と見つめ合う。じっと私を見据える瞳に気持ちが吸い込まれそうになる。けれど、言わなければならない。私の気持ちを楠雄くんに。
私はゆっくりと口を開いた。

「楠雄くんが話したい様って、超能力の...ことだよね?」

楠雄くんがコクリと頷いた。わかっているなら話が早いと、ゆっくり歩み寄ってくる。よくよく見れば彼の手にバールの様なものがいつの間にか握られている。

「私は楠雄くんの気持ちを尊重したいと思っているから、したい様にしてくれて構わないよ。」

本当は記憶なんて消されたくない。彼の超能力も含めて全てを受け入れていきたいのに。彼がそれを望まないのなら、私にそれ以上のわがままを言う権利なんて全くない。

「どこまで記憶が消えるかはわからないけど...私はどんな楠雄くんも、大好きからね。」

あぁ...ついに言ってしまった。楠雄くんは目を丸めて驚いている。最後に彼の貴重な表情が見られてよかった。私はゆっくり瞼を閉じた。



ーーーーーーーーーー・・・・

目覚ましの音でゆっくりと身体を起こす。
今日はいつも以上にスッキリした気持ちで目覚めることができた様な気がする。昨日、読んだ本が面白かったからかな。名探偵の予想外の推理にずっとハラハラしっぱなしだった。

いつもの様に朝食を食べて、身支度も済ませて学校へ。
学校に着くと知予ちゃんにおはようと挨拶を済ませて自席に座る。
変わらぬ景色のはずなのに、何かが足りない。みんなもその違和感がない様だし...気のせいなのかな。

あっという間に時間が過ぎて、放課後は燃堂くんに誘われて海藤くん達と一緒にラーメンを堪能した。今日も美味しいラーメンだった。燃堂くんのオススメは当たりもあればハズレもある。今日は当たりでよかった。

やっぱり何かが足りない。ずっと頭に引っかかるこれは何だろうか。
私は家の前まで来て、ようやく大きな違和感の理由を理解した。

私の家の前が更地になっている。
朝、母親に聞いてみたがそこはずっと更地だったと言われてしまったが...私の記憶が正しければそこには大きな家があった。誰が住んでいたかはわからないけど、とても大切な人がいた。そんな気がする。

なのに思い出せない。一体、君は誰だったのか。
胸がズキズキと痛んで、涙が溢れてくる。
どうして思い出せないのか...それが悔しくて、悲しく私は地面に膝をついて絶望した。

ぽっかりと穴が空いていて、何度呼吸をしても満たされないどころかどんどん苦しくなってくる。
この気持ちはそうだ。それだけははっきりと思い出した。

今はいない君に、私はずっと恋をしていたんだ。


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