セロ弾きのゴーシュ



本文をここに書いてください。
以下サンプル宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』
「ではすぐ今の次。はいっ。」
 そらと思って弾き出したかと思うといきなり楽長が足をどんと踏ふんでどなり出しました。
「だめだ。まるでなっていない。このへんは曲の心臓なんだ。それがこんながさがさしたことで。諸君。演奏までもうあと十日しかないんだよ。音楽を専門にやっているぼくらがあの金沓鍛冶かなぐつかじだの砂糖屋の丁稚でっちなんかの寄り集りに負けてしまったらいったいわれわれの面目めんもくはどうなるんだ。おいゴーシュ君。君には困るんだがなあ。表情ということがまるでできてない。怒おこるも喜ぶも感情というものがさっぱり出ないんだ。それにどうしてもぴたっと外の楽器と合わないもなあ。いつでもきみだけとけた靴くつのひもを引きずってみんなのあとをついてあるくようなんだ、困るよ、しっかりしてくれないとねえ。光輝こうきあるわが金星音楽団がきみ一人のために悪評をとるようなことでは、みんなへもまったく気の毒だからな。では今日は練習はここまで、休んで六時にはかっきりボックスへ入ってくれ給たまえ。」
 みんなはおじぎをして、それからたばこをくわえてマッチをすったりどこかへ出て行ったりしました。ゴーシュはその粗末そまつな箱はこみたいなセロをかかえて壁かべの方へ向いて口をまげてぼろぼろ泪なみだをこぼしましたが、気をとり直してじぶんだけたったひとりいまやったところをはじめからしずかにもいちど弾きはじめました。
 その晩遅おそくゴーシュは何か巨おおきな黒いものをしょってじぶんの家へ帰ってきました。家といってもそれは町はずれの川ばたにあるこわれた水車小屋で、ゴーシュはそこにたった一人ですんでいて午前は小屋のまわりの小さな畑でトマトの枝えだをきったり甘藍キャベジの虫をひろったりしてひるすぎになるといつも出て行っていたのです。ゴーシュがうちへ入ってあかりをつけるとさっきの黒い包みをあけました。それは何でもない。あの夕方のごつごつしたセロでした。ゴーシュはそれを床ゆかの上にそっと置くと、いきなり棚たなからコップをとってバケツの水をごくごくのみました。
 それから頭を一つふって椅子いすへかけるとまるで虎とらみたいな勢いきおいでひるの譜を弾きはじめました。譜をめくりながら弾いては考え考えては弾き一生けん命しまいまで行くとまたはじめからなんべんもなんべんもごうごうごうごう弾きつづけました。
 夜中もとうにすぎてしまいはもうじぶんが弾いているのかもわからないようになって顔もまっ赤になり眼もまるで血走ってとても物凄ものすごい顔つきになりいまにも倒たおれるかと思うように見えました。
 そのとき誰たれかうしろの扉とをとんとんと叩たたくものがありました。
「ホーシュ君か。」ゴーシュはねぼけたように叫さけびました。ところがすうと扉を押おしてはいって来たのはいままで五六ぺん見たことのある大きな三毛猫みけねこでした。
 ゴーシュの畑からとった半分熟したトマトをさも重そうに持って来てゴーシュの前におろして云いました。
「ああくたびれた。なかなか運搬うんぱんはひどいやな。」
「何だと」ゴーシュがききました。
「これおみやです。たべてください。」三毛猫が云いました。


あとがきとか



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