Episode1 例のあの人の娘


 闇の帝王、ヴォルデモート。
 数年前から本格的に活動を始め、今では英国魔法界で知らぬものはいないという程に名を轟かせた有名な闇の魔法使いだ。"純血主義"の思想の下、"マグル生まれ"や"半純血"の粛清を。そして、反対勢力を容赦なく殺害して行った。反ヴォルデモート派であるアルバス・ダンブルドアが組織した"不死鳥の騎士団"とヴォルデモートの率いる陣営は幾度となく衝突を繰り返す。遥かに多くの勢力をほこったヴォルデモート陣営に対して不死鳥の騎士団だけでなく闇祓い、魔法省の役員など多数の犠牲者を出した。
 この頃の人々は闇の帝王の存在に怯え、眠れぬ夜を過ごし、世は暗黒時代を迎えていた。それは、ヴォルデモートの名を口にすることさえ恐れる程に。
 しかし、その恐怖の根源の元にその少女は居た。美しい輝くシルバーブロンドの髪は柔らかく指通りが良い。真ん丸の大きい眼は父親と同じ血の色。彼女の父親はヴォルデモート、――トム・リドルだった。

「おとうさま!」

 薄暗い屋敷の中に場違いな子供特有の高く弾んだ声が響き渡る。

「おとうさま! 見てくださいっ! ベラが髪をゆってくれたんですよ!!」

 アデラ・リドルはとことこっと走ってきてトムの部屋に飛び込んだ。部屋の中にはトムの他に猫背の背の高い男がいた。

「あ……。ごめんなさい、おとうさま。お話のじゃまをしてしまいました」

 しゅんと俯いてしまった小さな頭の上にトムは手を置いた。形のいい頭には高さの違うツインテール(と呼んでいいものか)。しかも所々髪の毛が取りこぼされていた。

「……マイロード、私はこれで失礼させていただきます」
「ご苦労だったな」

 仰々しく胸に手を当て腰を折った男はアデラには目もくれずそそくさと部屋を出て行った。

「……あの人、知らない」

 閉まった扉をじっと見つめるアデラ。

「……」

 トムは床に片膝をつきアデラの髪を留めていたリボンを外して、きっちりと分けてから結びなおす。
不格好だった髪が、高さも揃い立派なツインテールになった。アデラは右を向いたり左を向いたりと揺れ動く自分の髪を追いかけている。

「次はベラではなく他の奴に結んでもらえ」
「? ……はぁーい!」

 アデラは大きく手あげて、トムのローブを掴んだ。

「ありがと! おとうさま!」

 ニコリと笑いかけると、ローブから手を離して元気よく廊下へ駆け出す。

「まったく……」

 トムは吐いた息こそ怒りを含んでいたが、表情はそれほど……。いや、にわかに微笑んでいた。
 例のあの人がこのように笑うなんて誰が想像するだろうか?それこそ魔法界をひっくり返すような大ニュースになるだろう。


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bkm
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