Episode.10 ホグワーツ特急


1st September 1982

 アデラは家の前に大量の荷物を運び出し、あらかじめ呼んでおいたタクシーに積めていく。

「お嬢さん一人で旅行かい?」
「……」
「おじさんにも君くらいの娘がいるんだがね、これがもうベッタベタの甘えん坊で……。君はすごいねぇ」

 運転手はルームミラー越しにこりと笑った。アデラは何も答えず、窓の外を見つめている。運転手は愛想のない態度に機嫌を損ねたのか、それからは無言で目的地のキングス・クロス駅を目指した。
 キングス・クロス駅に到着したのは十時少し前だった。カートに荷物を積んで押して歩く。ナーガは積んである一つの籠の中で丸くなっているはずだ。中が見えないように黒い布で覆っているため様子は伺えない。
 ダンブルドアの手紙に書いてあった通り、九番線と十番線の間のレンガの壁にカートを押し込んだ。そこだけはただの壁ではなく、ホグワーツ行きの特別な列車が停車するプラットホームへの入口だった。壁を抜ければ、目の前にはピカピカに磨き上げられた紅色の蒸気機関車。金の文字で『HOGWARTS EXPRESS』と彫られていた。
 機関車を見上げているとカサ、とナーガの入っている籠の布が僅かに揺れた。

【アデラ腹減った】
「……あとであげるからそれまで我慢して」
【……うぃ】

 布の中から聞こえたくぐもった声に小さく返した。辺りを見渡せばちらほらと子供と別れを告げている家族が目に入る。それを冷えきった眼で一瞥し、列車に目を戻すと駅員がこちらに向かってきた。

「やぁ。新入生かな?」
「えぇ……」
「制服の入っているトランクは車内に持っていくんだよ。ホグワーツに着く前に着替えるからね。君、ペットは連れている? 連れているようなら、専用の車両に……」
「いないわ。これ、お願い」

 ホグワーツに連れて行っていいのはふくろう、猫、ヒキガエルと決まっているからだ。ナーガ(蛇)を連れてることは秘密にしなければない。
 アデラはナーガの入っている籠と制服の入ったトランクをカートから降ろし、他の荷物を駅員に押し付けて、列車に乗り込んだ。早い時間なので、空いているコンパートメント席も多く適当に中に入って座った。足元に置いた籠が小さく揺れたかと思えば、ナーガが器用に鍵を外したらしい。布の合わせ目からぬぅと体を出してきた。

【飯は?】
「はいはい」

 ほんとに食い意地の張った蛇である。アデラは自分のトランクを開けて、死んだネズミをナーガに放り投げる。ナーガは嬉しそうにそれを受け取ると、籠の中へ戻っていった。


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