「さぁ出航だ!!」
「うそ……本当に何もなかったの?」
ナミはメリー号を隅から隅まで見て回る。部屋で爆睡をしていたルフィを除いた三人が交代でメリー号を窓から見張っていたが、船に近づく者は誰一人いなかった。
メリー号はゆっくりと海面を滑りだした。だんだんと遠ざかっていく街。"芸術"に固執した不思議な街だった。
「やっぱジョンシンって奴はいい奴なんじゃねぇーか! 食料もくれたし! ルフィ! 今度は考えて食えよ? ……無理だろうけど」
そう、そもそもルフィが食料を食べ尽くさなければ立ち寄る必要のなかった島だ。
「お兄さんが食料を全部食べちゃったから、あの島に立ち寄ったの?」
「そうなんだよ〜まったく困った奴だ……ぜ……」
ウソップは竦めた肩をそのままに硬直しながら、視線を横へ滑らした。
「Σっててててテメェ!!! なんでこの船に乗ってやがる!」
何喰わぬ顔でウソップの隣に立っていたのはあの屋敷で出会った少年、リーフィだった。
「…………」
チャキ、と刀が小さな音を立てる、ゾロが静かに刀の柄を掴んでいた。リーフィはそれに見向きもせず、壁や手すりを触っている。
「なかなか良い出来だよね」
感慨深そうに呟くリーフィに四人は首を傾げた。
「? どういうこと?」
「……この船、もうすぐ"消える"よ」
「「「??」」」
訳のわからないという顔をしたルフィたちをリーフィは空色の瞳でじっと見つめる。
「き、消えるってどういう意味? そんなことありえるわけがないわ!」
「ありえるよ。でも、そんなことを説明している暇もない。急がないと"領域"を出ちゃう」
「領域、だと?」
リーフィは静かに港の方を指差した。
「今すぐに船を港に戻すんだ……はやく、もど――……」
ザシュッ!! ボォ!!
赤いものが、リーフィの体を貫いた。それは瞬時に小さな体を包み込み、燃え上がる。
「Σギャァァアア!!! ガキが燃えたぁぁ!!!」
「う……そ……」
「今、火の付いた矢が飛んできたぞ!!」
ゾロは海上からも見える屋敷を睨みつけた。ピカリ、何かが光った。
「!? ……この子……! 人間じゃないわ!」
「Σ何ぃ!? ……これは、紙? か?」
リーフィの形をしていたものは、いとも容易く燃え上がり、灰へと変わっていった。燃えているものは、人ではなく紙だったのだ。
「とりあえず、急いで逃げまし……」
「ダメだ!」
「「ルフィ!?」」
ナミの言葉を遮り、ルフィはトレードマークの麦わら帽子に手を置いた。
「アイツが戻れっつったんだ! 戻るぞ!!」
行けない、と眼を伏せ、拳を震わせていたあの子供の元へ……。
2015/11/23