どらいびん!-if-
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こちらは「どらいびん!」のIFの世界となっております。
もしも車で一晩明かす(?)事になったら・・・








完全に私たちが「迷った」と自覚し始めてから、もうかれこれ二時間は経過していた。
依然として景色は深い緑一色。後ろを見れば不機嫌真っ只中な緑間くんの頭も見えて、まさに緑尽くしだ。・・・何て嫌なシチュエーション。
横をちらりと見れば、困ったように猫背になった高尾くん。いつもはピンと伸ばされたその背中も、流石の慣れない運転で疲れてきているご様子で。
運転を交代しながら車を走らせるも、行けども行けども見えるのは木、木、木。日本にはこんなに自然があったのかと最早関心してしまう程に、とにかく緑だった。一生ここから抜け出せなかったらどうしよう・・・

どうしよう。どうするわたし達。このまま下手に動いても、自体がいい方向に転向するとは思えない。ならばいっそここでじっとしていた方が、きっと賢い。

「今日はこのままここで野宿・・・しようか・・・」

ぽつりとわたしが呟く。
途端に地震かと思う程車内が揺れて、思わずシートベルトにしがみついた。見れば横にいる高尾くんも後ろにいる緑間くんも、大きく目を見開いて間抜け面。思わず携帯のカメラで記念に収めてから、どうしたのと声をかければ何でもないと返された。本当におかしな人達だ。
・・・とにかく、まず今晩をどうやって凌ぐか考えなくちゃ。

「流石に野宿は危険だろ。っつーかサトちゃん、きみ女の子。分かってる?」
「もちろん。いつも女子トイレ入っても誰も何も言わないから女子で合ってるはず!」
「そーゆー問題じゃなくてだな・・・」
「お前はもう少し警戒心を持つべきなのだよ」
「警戒心・・・?・・・えっ、この森、クマ出るの・・・?」
「クマじゃねーよ!!だああ!!もう!!俺知んねーからな!後でどうなっても文句言うなよ!」
「は・・・?高尾くん意味わかんない・・・ヤバイ・・・クマよりヤバイ・・・」
「サトちゃんクマクマって何なのさっきから!?クマそんなに好きなの!?」
「別に・・・でもホラあそこに・・・」
「あそこ・・・?」

高尾くんと緑間くんがそれぞれ窓を開け、身を乗り出す。そして即座に車内に体を戻し、窓を大急ぎで閉めた。ふるふると震えていて、なんだかかわいそうだ。

「・・・熊出没注意・・・」
「見間違えではないだろうな・・・」
「こう言う時ばっかりはホークアイ使えちゃう自分を呪うわ・・・」

そう。どうやらこの一帯、クマが出没するらしいのだ。テレビやニュースで良く耳にする事も、実際に自分の身に降りかかると思うとどうしても実感が沸かない。しかし確かにそこに看板は存在していて、それがクマの存在を物語っているのだ。こんな所で野宿したらそれこそクマの恰好の餌食にされ、二度と日の目を拝むことは無いだろう。

「・・・おおう・・・」

思わず身震いをして三人でしばし見つめ合った後、いそいそと寝支度を整え始めたわたし達であった。




・・・眠れない。
パチリと開いた瞳が、夜空をうつす。高尾くんの車は天井に窓がついていて、引き戸の様になっている覆いを外せば空が見えるのだ。せっかくだからと言って高尾くんがわたしを真ん中にしてくれて、今は三人で川の字になって横になっている。流石に緑間くんは高身長のせいで足を折り曲げているけれど、気を使ってくれているのかわたしとの間には少しばかりのスペースを空けてくれていた。そんなに気にしなくても全然大丈夫なのに。
緑間くんと逆の方に寝返りを打てば、高尾くんが背中を向けて眠っていた。いつもはあんまり意識してなかったけど、こうして見るとやっぱり男の子の背中だなあ。流石スポーツ選手。大学でも一年生ながら既に活躍していて、彼の実力と努力をこの背中が物語っている様な気がした。
もう一度空を眺める。サワサワと木の葉っぱが風にそよぐ音が聞こえた。それ以外は何も聞こえなくて、ここが森の中である事を嫌でも実感させられる。明日には抜け出せると良いんだけれど・・・。

期待を込めながら今度こそ眠りにつこうと瞳を閉じた。聴覚が一層研ぎ澄まされ、先ほどよりも鮮明に物音を聞き取る事が出来る。風の音、葉っぱの音。そして・・・

(ん・・・?)

明らかに不自然と認識できる物音が、混じりこんだ。気のせいかと姿勢を元に戻そうとした時、両側の二人と視線がかちあって気の所為では無いと知る。空気がピキリと張り詰めて、息をするのも苦しい。じっと息を潜めれば、今度こそはっきりと、砂利を踏みしめる様な、そんな音が聞こえた。

「ちょ、ま、何・・・!?」
「風の音だろう・・・?」
「風の音にしてはちょっと・・・」

三人で声を潜めて会話するも、その音は一向に止む気配が無い。あろう事かその物音は秒を重ねる毎に大きくなって行き、この車との距離を何者かが縮めているのだと認識する。

「ちょっと、待って・・・まさか・・・」
「クマ・・・?」

わたしが呟いた途端、高尾くんがわっと飛び起きてわたしにしがみついて来た。くるしいとは思いつつもわたしも恐怖心から思わず抱きしめ返してしまう。

音が迫る。
息をひそめる。
右の窓の、もう傍まで来ている。
息を殺す。


足音が、止まった。


「・・・・・・っ」


早鐘を打つ心臓の音が間近で聞こえる。背中に回した腕で高尾くんの体温を感じながら、今度は背中から温もりが流れ込んで来るのを感じた。緑間くんの香りだ。高尾くんも、わたしも、そして緑間くんも、小さく揺れている。怖い。こわい。私たちはこんな場所で、誰にも知られず、死んでしまうのか。それも、クマに襲われて。
冗談では無いと思いつつも成す術も無く、ただただ震える事しか出来なかった。
二人と出会ったその日から、本当に楽しい事の連続だった。
走馬灯の様に今までの思い出が駆け巡って、最後が近いんだと本能が告げてる様だった。
前と後ろに温もりを感じて、私はしずかに瞳を閉じる。


がつりと、窓を叩く音がした。


光が、私たちを照らした。





「おめだぢ、こんなとこでなぁ〜にやってんだ?」














不幸中の幸いとは






















「そりゃ〜災難だったなぁ〜」
「はあ・・・」
「この先は俺の畑だもんでな、今日は家さ泊まってげ」
「はあ・・・」
「おめだぢこんなとこで迷うって事はよそもんだな?」
「え・・・?ここ京都じゃ無いんすか?」
「何言ってんだぁ?宮城だ、宮城」
「「「はあ!?!?」」」



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メッセージからいただいた素敵なアイディアを早速使わせていただきましたー!
もっとドッキリハプニングを交えるつもりが・・・なんだか大人しめに・・・
まさか自分の作品のIFを書くとは思っていなかったので、新しい境地を切り開いた気分です・・・!
楽しかった!
引き続き面白いアイディアを募集中ですので、何かひらめきましたらお気軽にどうぞです!


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