まだ夢をみているのでしょうか
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長い合宿がついに幕を開けた。
じりじりと照りつける太陽も鳴りを潜め、もやもやとした熱さを残した夜が訪れた。風呂を済ませて食事も終えれば、明日に備えて寝るだけだ。
高尾の馬鹿がまくら投げを提案して来たが即座に却下。マネージャーである熊谷も参戦を試みた様だったので、二人まとめてシメておいた。本当に手のかかる奴らだ。

日課のストレッチも入念に施し、ナイトキャップを被れば高尾に大爆笑された。もう一度シメてやろうと立ち上がれば高尾は、「それじゃあお休み!!!」とやけに威勢の良い声を張り上げて電気の紐を引いたのであった。

暗闇に包まれる。
今日も一苦労な一日だったな。






カチコチと時計の音に目を覚ましたかと思えば、襖の開く音がした。眼鏡を外した目ではその輪郭すら捉える事は困難だが、おそらく高尾だろう。こんな時間に何を、と眉をしかめたが、廊下の向こう側から流水音が聞こえるところによると用でも足しに行ったのだろう。
開けられた襖から漏れる光が徐々に細くなり、暗闇が再来する。明日も早い事だし俺ももう一眠りしようと目を閉じた瞬間、体に重みが伸し掛かった。

「な…!?」

突然の事態に頭が付いて行かず、思わず小さく声を上げてしまう。同室には先輩も眠っている。起こしてしまわなかったかと混乱した頭で耳を澄ませば、穏やかな寝息が聞こえるだけだった。
ほっと溜息をついて頭を元の位置に戻せば、ふわりふわりと柔らかいものが頬にあたる。
何だ、何なのだ…!?

「うーん…」

小さな寝言と共に体の上に乗しかかった「それ」は身じろぎして、俺の体にささやかな圧力をかける。ぼやける視界の中そのふわふわとした物体に掌を置けば、やはり人の頭であった。するりと手櫛を通せるあたり、これは髪の毛か…?
いや、そんな事より一刻も早く退いてもらわなければ困る。輪郭の滲んだ視界を目を眇めて絞りを合わせれば、その髪はどうやら黒い色をしているらしい。
つまり…

「高尾ォ…!!」

むにゃむにゃと呑気に寝息を立てるコイツに怒りを募らせれば、今度はくすくすと笑い始めた。めでたいやつめ。
俺は上半身を起こして高尾の上体を起こさせた。肩を掴んでもう一度ゆっくり床に寝かせてやればばしりと腕を叩かれた。…後で覚えていろよ…!

とにもかくにも今制裁を下せば、疲労は回復されないまま明日を迎える事になるだろう。
高尾をこらしめるのと明日のわが身、どちらを選択するのが賢いかなど火を見るより明らかだ。

そのままごろごろと横に転がしてやって、元居た布団へと返してやった。
きちんと布団までかけてやった自分の親切さの御代は、明日きっちりと支払ってもらう事にしよう。


もう一度ストレッチを施してから、再びナイトキャップを被って布団に潜れば、速やかな眠りに落ちていった。

高尾、明日殺す…。










誰のものともつかないアラーム音がけたたましく鳴り、もぞりもぞりと部員が起きだす。
俺もその一部となりまだ覚醒しきっていない体を起こした。
隣を見れば未だ布団にくるまった高尾の姿が見受けられる。昨日は散々人に迷惑をかけておいたくせに、全く良い御身分である。

「高尾、おい、起きろ」

声をかけて布団に手をかける。ぐっと引っ張ろうと思った瞬間「ちょっと待って!!!!」と言う大声が聞こえた。
何事かと思えば、それは高尾の布団の中からで、布団を引っ張り返して抵抗を見せいる。

「往生際の悪い…はやく、起きるのだよっ…!」

「ああああ!!やめて!!真ちゃん本当にやめて!!一生のお願い!!」

「こんなところで使える一生のお願いなんて、ずいぶん、安っぽい、願い事だな…っ!」

「あああああ!!!」

力くらべでついに勝利し、ばさりと布団が舞い上がった。
だらしない恰好(中学のジャージらしい)で丸まった高尾の姿が見えたまでは良かったが、その隣におかしな影が見えた。

「高尾…なん…」

「違うんだ真ちゃん!これには深〜い訳が…!」













まだ夢を見ているのでしょうか


















「高尾…!!今死ぬのと今殺されるの、どちらが良い?」

「それどっちも死んじゃう!!っていうか何かの間違いだって!!」

「熊谷がお前と同じ布団を共有している事がか?確かに間違いだな、道徳的に!」

「真ちゃん怒んないで!確かにちょっと嬉しか…いぎゃあああ!!!嘘うそ!!嬉しくない!喜んでない!!」

「嬉しくない?一度自分の下半身に問いかけてみるんだな!」

「え…?う、うわああああ!!」

「二人ともおはよ〜…あれ…なんでわたしここに!?」




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トイレから帰って来たのはヒロインちゃんでしたな話(部屋を間違った)
あとからよくよく考えてみればヒロインちゃんが体の上に乗っかったんだって思い至って赤面する真ちゃん、良いと思います。


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