こねこどこのこどうしてこう大人しくできないかな。
『ほら〜煮干しだよ〜おいしいよ〜』
急いで近所のスーパーで買ってきた煮干しを片手に、左右にちらつかせてみても効果なし。
うちのにゃんこちゃんは本当に困ったにゃんこちゃんだ。
洗濯物をとりこもうとしたちょっとした隙に脱走。最寄りの大木へ駆け上る。臆病ゆえ降りれなくなる。
身の程を知りなさいね。おばか猫。
『タイガ、ほら、煮干し』
わずかな希望にかけてなけなしのお金をはたいた煮干しも、目の前の恐怖には勝らないようだ。
困ったなあ。
途方に暮れてると、いきなり視界が陰った。暗い!何?
「あれ、お前ん家の猫?」
『へ?』
視界が暗くなったかと思えばいきなり空から声が降ってきた。
見上げると、真っ赤な髪の毛をした、男の人が。
って、同じクラスの火神くんじゃん!
火神くんて背も高いし髪も赤いし、粗暴で手もすぐ出る危険人物だともっぱらの噂だ。
出来るだけ穏便に、差し当たりなく、一生関わらずに過ごす予定だったのに…!
グッバイマイビューティフルスクールライフ…!
『アーメン…』
「は?」
『ひぎぇえええ!違います、違います!!』
「違う?じゃあ誰ん家の猫?」
『いや、あれは、私の家の猫…です』
「降りれねえの」
『はい…なんかちょっと目を離したらあんなところに…』
ふーん。
そう言いながらうちのタイガ(黒猫・オス)を見上げる火神くん。
まさか小動物にまで手をだすトンデモ野郎なのだろうか…?
やばい、逃げてタイガ!!!!
『あの、ホント馬鹿で困ってるんです!もう棒か何かで叩いて落としますんで、あの、全然もう、ホント「これ持ってろ」…え?』
言われるままに投げられた鞄を受け取って、呆然と火神くんを目で追う。
いきなりちょっと遠くに行ったと思ったら、そのまま助走をつけて走ってきた。
何!?飛び蹴り!?私飛び蹴り喰らうの!?同級生のしかも同じクラスの男子に!?
なんか私悪い事したっけ?ああお風呂ろくすっぽ洗わないでお湯入れたりダンゴ虫丸めたわ…制裁下されるんだわ…
『アーメン…ぶへッ!?』
走馬灯のように様々な思い出をフラッシュバックさせていたその時、いきなり顔面にやわらかな感触が。
何。
殴られた?
にしては衝撃がソフトだったな。
『って、タイガ!?』
「みゃー」
私の腕の中にすっぽりおさまって、煮干しの袋に必死に手を伸ばそうとしているタイガ。
何だ。何事だ…!
「そいつの名前、タイガってーの」
『え?…ええええっと!!!うん!いや、はい!!!タイガです!!オスです!!』
「は」
『ひぎいいいい!!すいませんすいません!!オスとかどうでもいいですよね!!っていうかはいどうぞこれ鞄!!!』
ああああもう私なに言ってんだろ。確実にちょっと面かせやルートじゃん。
おしまいじゃん。
絶対「きもい」とか思われてるじゃん。
『タイガも無事かえって来たことですし…って、…あれ?』
パンパンとズボンの汚れを払う火神くん。
鞄を受け取って肩にかけ直す。
私の腕の中にはタイガ。
さっきまで木の上にいたのに。
ちょっと待てよ
『ああっ!火神くん、えっと!?えっと!?ありがとう!?』
「なんで疑問形」
テンパる私をよそに火神くんがははっと笑った。
その笑顔が思ってたよりずっとずっとやさしくて柔らかくて、思わず私も笑い返してしまった。
『本当にありがとう…!あ!これ、お礼と言っちゃ何だけど、はい』
「煮干しかよ。しかも開封済みだし。まあ受け取っとく」
そう言って今度はおかしそうに笑う火神くん。
…あれ思ったより全然怖くない?
ていうか、良い人?
『ほら!タイガもお礼言うんだよ!この人は火神…』
あれ?
火神…なんだっけ。名前、そういえば知らない。
『えっと、』
「大我。火神大我」
『そう!火神たい…ってええ!?』
こねこどこのこ
(タイガ!おそろいだよ!)
(性格は似てねえな)
(飼い主に似てチキンだから…)
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名前を呼ばれたと思ったら、猫だった的な。
大我って名前かっこいいですよね。
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