※現パロで鶴丸もヒロインも教師設定














「鶴丸せんせ」
「おっ、城田今日も来たな」

今日も私は北館2階の端っこにある化学実験室を、放課後に訪れていた。私は毎週金曜日に、この教室に訪れている。原因は片足を立てた状態で、教卓に座って笑っている全身真っ白男で化学教師の鶴丸国永である。その姿は、生徒達の模範である教師とは思えない格好だ。

「今日はなんの実験?」
「ふっふっふ……。今日は、炎色反応だ!」


***


私と鶴丸国永という男は、同期だ。実年齢的には鶴丸のが一つ上なのだけれど、この本丸学園に赴任してきたのが同時期だったために、この学園内では基本的には同期扱いとなっている。まぁ、そんな縁もあり私と鶴丸はそこそこ仲が良く、結構な頻度で仕事終わりに飲みに行ったりもする程だ。ちなみに鶴丸は化学教師、私は国語教師だ。
そんなある日、二人で飲んでいる最中、ぽろっと私が「化学って難しくて全然楽しくなかったんだよなぁ」と彼の前で零してしまった。今考えると、化学を担当している奴の前で私は何を言っているんだ。という話なのだが、酒が入っていたせいもあって私は少し口が軽くなっていたらしい。ぽろっと口から簡単に零れ落ちたのだ。それを聞いて黙っていないのが鶴丸国永という男だ。彼は化学を愛していた。彼曰く、なんでも化学は驚きでできているそうだ。その驚きを知ってもらいたくて教師になったらしい。その驚きの共有というのは生徒達だけではなく、大人にも知ってもらいたかった彼は、私の言葉に聞き捨てならなかったらしくその次の瞬間には「化学の面白さを知らないなんて勿体無い!」とそう叫んだのだ。

「……じゃあ、鶴丸が化学の面白さを教えてくれるっていうの?」
「あぁ、勿論だ!そうだな……、次の金曜の放課後、実験室に来るといい。面白いものをみせてやるぞ!」

これがきっかけだった。
そうして私は鶴丸の言った通り、金曜日に実験室へと足を運んだ。そこで待っていたのはアンモニアの噴水実験だった。
今でこそこうやってなんの実験だったか言えるが、最初見た時は全く持って分からなかった。なんで何もしてないのに水がせり上がってる?そのせり上がった水が勝手にピンクになってるのはなんで?とぽんぽん疑問が浮かんできて、暫くその実験を見つけていた後にじっと私を観察していた鶴丸に向かって「どうして!?」と迫ったのだ。それを見て鶴丸が「どうだ、驚いただろう?」と子供のように笑った。
その後鶴丸は丁寧に私に教えてくれて、理系がてんでダメな私にもなんとか理解は出来るようになった。その時間が楽しくて私はつい鶴丸に聞いてしまったのだ。

「来週もこれ、やるの?」


***


あの時からずっとこれは続いていて、今では華の金曜日ということもあって飲みの次に楽しみになっている。毎回鶴丸は私が興味を持ちそうな題材の実験のネタを持ってくるから、彼は本当によく私の好みを分かっていると思う。そのお陰もあって、私の中で科学実験はかなり楽しいもの、だという認識に変わっている。私の時の高校教師も、これぐらいしてくれれば良かったのになぁ。と思わざるを得ない。それぐらい、彼の催す実験は好きだった。まぁ、確かに実験自体が楽しいというのも勿論あるが、何より鶴丸が楽しそうに笑って語ってくれるのが好きなのだ。笑顔であれこうなんだ、それがこうなんだ。と説明されればこっちも聞いてやろうという気になるし、実際楽しいし。

「せんせー、炎色反応って?」
「おいおいそっからか……。お前本当に高校で化学を習って生きてきたのか?」
「余りにも興味がなくて記憶から抹消されてる」
「勿体なさすぎるから今すぐ思い出してくれ」

やれやれ、と鶴丸は肩を竦めてよっ。と声に出しながら教壇から飛び降りた。そしてチョークを持ってカツカツと黒板に白線を紡いでいく。

「いいか?炎色反応っていうのは炎に特定の金属を突っ込むと、その金属が熱エネルギーによって解離されて、原子化する。そして更に原子化したものが―、と長々しい説明があるんだが、まぁ要は金属に熱を加える事でその金属原子が特有の色を示す、ということだ。高校で習う炎色反応は一般的には7つだな。センター試験にも結構出る。そして定期テストにも出る」

あ、これうちの生徒達に言ってあげよう。かなりの有力情報だ。

「高校レベルで必要な金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、だ。他にも大体10種類くらいの金属が炎に突っ込むと色を出す。ちなみに個人的な観点で一番綺麗なのは銅だな。見事な青緑色になるんだ」
「そ、んなことを習ったような習わなかったような……」
「まだ思い出せないのか君は……」
「うっさいな!高校時代数学と理科で苦しんでんだよこっちは!」
「本当にドが付くぐらいの文系だなぁ、君は。……まぁいい。そこで、今日はさっき言った7つの金属を用意した。そしてここにガスバーナーがある!」

じゃーん!と鶴丸はまるで手品のように机の上に7つの皿を出現させて、更にガスバーナーを出してきた。皿の上にはラップが掛けられていて、それぞれの金属名が書いてあった。

「じゃあ城田、適当に好きな金属を取ってみろ」
「……じゃあ、カルシウムで」
「その棒の先に金属がついてるから、先端をそっとガスバーナーの中に入れてみろ。あっと驚くぞ?」

鶴丸に言われた通り、皿に入っていた棒を掴んで彼が用意してくれたガスバーナー(ちなみに私はこれをつけるのがめちゃくちゃ下手だった)にそっと突っ込んだ。

「あっ」

するとどうだろうか!ただ炎の中に金属を入れただけで、青色だった炎が見事は橙赤色に変わったのだ。それは私にとって未知の領域で、魔法のようだった。ただの金属が、炎の色を変えるだけの力を持っているなんて、今まで知らなかった(正確には忘れていただけだ)。たった一つの炎色反応を見ただけなのに、私は楽しくなってきてカルシウムの炎色反応が終わると、次はリチウム、その次はバリウム、と次々と試していった。
深紅のような真っ赤な赤、煌めくような黄色、藤のような淡紫、エーゲ海のような青緑色。私の手元にある金属達は様々な色を見せてくれた。私が本当に子供のような顔をしていたのだろう。鶴丸はそんな私を見てくつくつと喉を鳴らして笑っていた。

「城田は本当に予想通り驚いてくれるから、俺も楽しいな」
「私も、この時間は楽しくて好きよ。ほんと、高校時代の化学教師が鶴丸だったら良かったのに」
「そう思ってくれてるのならこれは大成功だな!ちなみに、この炎色反応は花火に応用されている。花火に色が付いてるのは、火薬の中に金属が含まれていて、その金属が炎に反応しているからだ」
「へぇ……。じゃあ、化学教師の鶴丸先生は花火の色でなんの金属が入ってるか分かるの?」
「まぁ、大体はな」

そこは流石化学教師というところだろう。私なんてさっき実験したのにもうどの金属が何色になるかんて忘れてしまった。けれど、鶴丸イチオシの銅は、きちんと覚えている。

「やっぱり私、この時間が好きだわ」
「ではまた来週も君が驚くものを用意しておくとするか」

   
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