俺の好きな子は、真ちゃんのことが好きだ。

直接聞いたワケじゃねーけど、いつも嬉しそうに真ちゃんと話しているからきっとそうなんだろう。そして真ちゃんも満更じゃなさそーだし? そんな結ちゃんに俺は何時も"真ちゃんが女の子と帰ってるのを見たぜ"とか"あの美人な先輩、真ちゃんのこと好きらしいぜー"なんて発破かける。その度に結ちゃんは、少しだけ悲しそうに眉を下げて笑う。俺の発言がきっと彼女を傷付けてるのは分かってる。だけど、俺を見て欲しくて、こんな不毛なことをずっと続けてる。

こんなコトしても、誰の為にもならねーけどさ。


***


そんなある日の夜、真ちゃんから電話が掛かって来た。「もしもーし、真ちゃん? どったの?」と比較的明るめの声で電話に出た。


「……高尾、よく聞くのだよ」


そんな声とは裏腹に、受話器の向こうは暗く静かだった。ざわり、と嫌な予感が蠢く。受話器の向こうで、真ちゃんが息を吸う気配がする。俺の脳が聞くな聞くなと、警鐘を鳴り響かせる。それでも、携帯を耳から離せなくて、吐き出す息と共に発せられる声を聞いてしまう。
やめろ、真ちゃん。聞きたくない。何も、悪いことは言わないで……っ。


「城田が、事故に遭った」
「……っ!?」


ひゅっと喉が鳴る。同時に鈍器で殴られたような感覚に襲われた。呼吸が荒くなり、息が上手く出来ない。事故に遭ったって、何で……。


「理由は知らんが、町に出歩いていたそうだ。恐らく、自分に必要な物を買いに行ったのだろう。ルーズリーフが入った袋が近くに落ちていたらしい。その帰り道に、飛び出した猫を助けようとして突っ込んでいった」
「……、結ちゃんの、状態は……?」
「……幸い、重傷にまではいっていないようだが、暫くは入院が必要なのだよ」


震える声で真ちゃんに尋ねると、命に別状は無いらしかった。一先ず安心して、心臓の動悸が少し落ち着く。けれど、相変わらずざわざわとした、嫌な感じは消えなくて早口に見舞いに行こうと提案するが、今夜はもう遅いのだよ。と冷静に返される。


「明日の部活は午後練だ。午前の内に、見舞いに行くぞ」
「……ん、りょーかい」
「城田はきっと、大丈夫なのだよ」
「……!!」


真ちゃんは最後にそう言って、電話を切った。あまりにも冷静でいるから、悲しくないのか寄ってまくし立てたかった。だけど、最後の震える声を聞いて、これは俺に伝えるの同時に、真ちゃん自身にも言い聞かせてるんだって気付いた。……そりゃ、心配じゃないワケ無いよな。


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