※学園パロディ。刀剣乱舞花丸5話ネタ有り。花丸本丸の刀剣男士が転生した風の設定











「城田!」
「……鶴丸君?どうかした?」

私立本丸学園の学園祭がつい先日終わり、暦では10月に差し掛かる頃だった。普段と同じように登校して、リュックから今日使う教科書なんかを机に入れていれば後ろから珍しい人に声を掛けられたから驚いた。
鶴丸 国永。
この学園の2年生なら知らぬ人はいないだろうと思ってしまうほど有名な人だった。眉目秀麗、天真爛漫、スポーツ万能。勉強……の方はそんなに得意ではないみたいなのだが、まぁ何かにつけて目立っているのがこの鶴丸君という人だ。多分、見目の良さやスポーツ万能加減なんかは先輩や後輩にも知っている人はいるだろう。それぐらい彼は美丈夫であったし、よく球技大会なんかでは活躍している姿を見かけた。
そんな人気者の鶴丸君とは同じクラスというだけで、別段仲が良いなんてことは無い。たまに話すことはあっても事務的な会話が殆どだ。彼はコミュニケーション能力がカンストしているから、時々向こうから話題を振ってくれることはあるけど、特別愛想が良いというわけではない私は、いつもその話題を適当な所で切り上げるのが常だった。そんな彼が、話しかけてくるなんてどういう風の吹き回しなんだろうか。

「俺に琴を教えてくれないか!」
「……え?」

だから、彼がこんなことを言うなんて想像できなかったのは仕方ないと思いたい。
思わず彼の言葉に目を点にしながらも、彼が急にそんなことを言い出した理由を問うてみる。

「何、急にどうしたの?スポーツだけじゃ飽き足らず、遂に音楽にまで才能を開華させるつもりなの?」
「いや別にそういうわけではないんだが。……とにかく、俺に琴を教えてくれ!城田は箏曲部だったよな?」
「そうだけど……」

どうやら無駄に才能を開華させようとするつもりではないらしい。まぁそんなことしたらいよいよ文化系男子までも彼を敵と見なしてしまうだろうから、ある意味良かったのかもしれない。
しかし彼はやたらと「お琴」という楽器に拘っているように見える。楽器を弾いてみたいだけなら別にお琴に拘る必要な無いのではないだろうか。ピアノとか見た目的には弾いてそうだし、快活な性格を表すならトランペットとかもやっていそうだ。まぁ、チェロとかコントラバスとか弾いてても違和感はないだろう。つまり、箏曲部ではなく吹奏楽部でも別にいいんじゃないかという話である。
素直に思ったことを口にすれば、彼は至極真面目な顔をして「琴じゃないと駄目なんだ」と言い切ってみせた。その顔に、ちょっとときめいたのは此処だけの話だ。

「鶴丸君、そんなにお琴弾きたいなら部活に入れば?一々私に聞かなくたって教えてもらえるじゃん。帰宅部なんでしょ?」
「いやいや、毎日放課後の時間が潰れるのは勿体無い」
「……部活に入ってる全生徒の前で言える?それ」
「別に馬鹿にしたわけじゃないぞ!?毎日部活に精を出す奴等は素直に凄いと思うさ」

あまりにも彼がお琴を教えてくれと必死なものだから、そのまま箏曲部に入部することを勧めたのだがこの提案はあっさりと却下されてしまった。どうやら彼には放課後様々な予定があるらしく、毎日毎日放課後を部室で過ごすのは中々に耐えるらしい。まぁ、確かに彼は授業が終わり次第いつもすぐに教室を出ていってしまうイメージがあったから本当に何かあるのだろう。常日頃驚きを求めて何かしでかしていることは聞いている(時々授業中にもやっているのを知っている)し、それが出来ないことは彼にとっては死活問題なんだろう。私には理解できそうに無いけど。

「ふぅん、まあ、いいけどさ。……じゃあ、なんで急にお琴弾きたいとか思ったの?」
「いや、なに、俺の知り合いに琴の音色が好きな奴がいるんだが、俺が弾けるようになってちょっとばかし驚かせてやろうと思ってな。……昔は、ただ爪弾くだけで曲を聞かせてやれなかったからな」

存外まともな理由が返ってきて少しビックリする。鶴丸君は天真爛漫好奇心旺盛というイメージが強いから、興味本位でお琴を弾いてみたいのかとばかり思っていた。なのに知り合いにお琴を弾いて聞かせてやりたいというのだから驚きだ。意図してやったわけでは無いだろうけど、彼のその言葉に堪らず目を見開くと「驚いたか?」と彼は歯を見せて笑った。

「そっか。……じゃあ、弾きたい曲とかある?その人の好きな曲とか、あるんじゃないの?」
「あるにはあるんだがなあ……。曲名が分からないからなんとも」
「その聴かせたい人も、知らないの?」
「多分な。昔世話になった女性が弾いていたのを、聞いていただけみたいだからなあ……」

そこまで言うからには何か彼の知り合いには思い出の曲なんかがあるのだろうと思って聞いてみたのだが、なんということか曲名が分からないと言う。聞いた感じでは、ぼんやりとメロディを覚えてはいるらしいのだが、そんなアバウトな状態で目当ての曲を探し当てることはほぼ不可能と言ってもいい。有名な曲なら私でも分かったかもしれないのだが、なにせ条件が江戸時代前期までに存在していた曲という、非常に難解なものだからだ。一体全体、彼の知り合いはどうやってその曲が江戸時代前期までの曲だと、確信を得たのだろうか。謎である。

「……じゃあ易しめで、初心者向きの曲を覚えるとか?」
「いや、どうせなら君の好きな曲を覚えたい」
「……なにゆえ?」

では取り敢えず、と妥協案を出してみたのだがそれはすぐさまに却下されてしまう。正直コレが一番手っ取り早く、尚且つ確実な方法だと思うのだが目の前の彼は何故か私の好きな曲を覚えたいなどと言ってのけたのだ。これには非常に驚いた。もはや一周回って冷静に彼に問いかけてしまうほどに。
しかし今日の私は鶴丸君に質問ばかり投げ掛けている気がする。いや、気がするのではなく確実にそうだ。それもこれも彼が私に疑問を抱かせるような情報の与え方をするからいけないんだ。もっと一気に手っ取り早くバッ!と私に情報を寄越して欲しい。

「そんな初心者向きの曲を弾けてもつまらないだろう?どうせなら難しい曲を弾いてみせる方が面白いしな!それに折角教えてもらうんだ、君の好きな曲を知りたいと思うんだが駄目かい?」
「……、」

まるで雨の中で捨てたれた子犬や子猫がするような表情を向けられて言葉に詰まった。思わず心中で無自覚タラシか……?と呟いてしまうくらいのものである。それぐらい彼の言葉には破壊力があったのだから仕方がない。これが私じゃなければ落ちてたな、と冷静に分析する。というか、今の言葉のせいで確実にぼちぼち教室に入り始めていたクラスメイト達の視線が私と鶴丸君に向けられた気がする。主に女子の。

「……まあ、いいけど。折角だし、私と二重奏しようよ。独奏よりは多分楽しいと思う」
「それはいいな!きっと伽羅坊もそっちの方が驚くぞ!」

それでもまぁ、折角彼が興味を持って弾きたいと言ってくれているのだから、独奏よりも掛け合いなんかがある二重奏の方が楽しいだろうと思って提案してみれば、予想通り彼はその提案を二つ返事で了解の意を示してくれる。

「でもその分掛け合いとかあるし、難しくなると思うよ。そんなに難易度の高い曲は選ばないつもりだけど」
「それぐらいは承知の上さ。……というか、本当に教えてくれるのか?」
「えっ?此処まで話を進めておいて今更もう一回聞いちゃうの?」
「いや、頼んでおいてなんだが、城田はこういうことにあまり積極的では無いかと思っていたぞ」
「本当に先に頼んで来たのに失礼な人だな?鶴丸君。……まぁ、評価としちゃ間違ってはいないだろうけど。お琴が絡んだら別だよ。切っ掛けはなんであれ、お琴に触れようと思ってくれるのは、嬉しい」
「……そうか、城田は琴が好きなんだな」
「うん」

鶴丸君の失礼にも程があるが決して間違ってはいない言葉に対してそう返せば、彼は一瞬目を丸くしたけれどすぐに優しそうに笑った。その顔にも、また少しだけときめてしまう。なまじ顔が良いだけに破壊力が高いのだ。

「……そう言えば、なんで今更、この時期なの?去年とかでも良かったんじゃ無いの?」
「あぁ、実はこの学園に箏曲部があるのはつい最近知ったんだ。ほら、学園祭で箏曲部はコンサートやってるだろう。あれを見たんだ。去年は午前中は体育館に近寄りもしなかったから気付いてなかった」
「君は去年の部活紹介で何を聞いてたんだ??それにポスターだって沢山貼ってただろうに……」
「ははは!人間そんなこともあるさ!」
「えぇ……」


こうして、高校2年生の10月に、鶴丸君と奇妙な交友関係が築かれてしまったのである。

   
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -