「スモーカーせんせーっ!!!」
朝から校内に響く馬鹿デカイ声。 あ、あたしの声です。
思いっきり遅刻で学校に着いたもんだから、廊下には同じ遅刻仲間が数名しか居ない上に、SHR中で各クラスの先生の声が廊下に漏れているだけだった。
そんな中、遅刻確定で諦めて欠伸を洩らしながらのんびり歩いていると、渡り廊下から見える中庭に愛しのスモーカー先生の姿を見つけた(サボリじゃないよ!担任持ってないからSHRは出なくていいの!)。これは叫ぶしかないでしょーが。
と、いうことで冒頭の叫び声に至る。
静かな学校内に嫌という程響いた声に、叫んだ張本人よりも名前を呼ばれた当事者、むしろ被害者とも呼べる先生が顔を真っ赤にくわえていた葉巻を落とした。
「おはようございまーすっ!!」
「うるせェ!早く教室行けっ!!」
「先生っ!今からそこ行きますっ!!」
「はあっ!?来るなっ!教室行けェっ!!」
先生の声を聞きつつも、それに従うあたしじゃないわよ!
眠気なんかとっくに吹っ飛んでいる頭にあるのは、どうやったらスモーカー先生のところに一刻も早く辿り着けるかという難題、それだけである。
まあ、答えを出すよりも早くあたしは渡り廊下の手刷りに足をかけていた。
「はあっ!?」
「スモーカー先生っ!今行きます!!」
「何やってんだ!やめろっ!」
えいっ、と踏み込んだ。
‥踏み込んだんだ。
「あ、あれ‥?」
鳥の如く羽ばたいて、スモーカー先生のお胸にダイブしようと思ったのに‥何故?
一向に風を切るような感覚もないし、ましてや景色がめくるめく変わってもいない。
スモーカー先生には全く近づけていなかった。
「もう一回‥えいっ!」
未だ手刷りに触れたままの足を踏ん張った。
しかし何かが引っかかって動けない。
「何やってるんだ、お前は」
「げっ、先生‥」
担任のシャンクス先生に捕まりました(スモーカー先生のお胸がァ〜)。
* * *
あれから強制連行されたあたしは、渋々1限から4限を受けた。
もうダメだ。スモーカー先生不足だ。
と、げっそりした顔でフラフラとスモーカー先生探しにさ迷い出た。
きっとスモーカー先生のことだ。昼休みはいつもの場所で葉巻葺かしてるに決まってる。
「スモーカーしぇんしぇ〜」
「お前、また‥」
案の定、スモーカー先生は生徒は入ることの出来ない屋上で、ブカプカと紫煙を燻らせていた。
何かに役立つだろうと身につけていたピッキング技術(役立つって泥棒くらいだろ?ノンノンノン、好きな人の部屋に忍び込むとかあるでしょ←)により、あたしは難なく屋上に入れたのだ。
スモーカー先生を見つけるや否や、あたしはそのすんばらしい身体に飛び付いた(スモーカー先生の身体!はァはァ)。
「しぇんしぇ〜」
「おい、離れろ」
「嫌です〜」
ヘロヘロと喋るあたしに多少の違和感を感じたのか、スモーカー先生は眉を寄せて顔を覗いてきた。
「……」
「しぇんしぇ〜?」
「なんつー面してんだよ」
腰に抱きついたままのあたしの頭をぽんぽんと、到底優しいとは言えない手つきで撫でてくれた(やっばい、ずっきゅん)。
「ど、どんな顔してましたか?」
「今にも死にそうな面だよ」
「スモーカー先生に会いたくて死にそうでした」
「馬鹿だろ、お前」
ふぅ、とスモーカー先生は紫煙を吐き出した。
ゆらゆら揺れる煙が、時間の流れを遅く感じさせる。
「俺の邪魔だけはすんなよ」
腰に抱きついてるだけで十分邪魔なはずなのに、引き離そうとしないのは何故ですか?
煙を吐いた後、小さく笑ったのは何故ですか?
「先生‥」
あたし、自惚れちゃってもいいですか?
あたし、期待しちゃってもいいですか?
「ぐふ、むふふふふふ」
チャームポイントはにやけ顔
(好きなんだからしょうがない!)
「てめェ!気持ち悪ィな!離れろ!!」
「先生〜先生〜んふふーん」
「(ゾゾ)やめろ!変なとこ触っ‥」
「先生好きですぅ〜」
「な、やめっ‥」
「ぐふふふふふ」