「おい」
「ほへ?」
いきなり後ろから声をかけられ、すごく間抜けな声を出しながら間抜けな顔で振り向くと、
「超タイプなんですけどお兄さんとりあえずお茶でもしませんか?っていうかむしろ彼女になりたいなんて思うんですけど彼女はいらっしゃるんですか?まあ居たら居たで泣いちゃうっていうかそれはそれで略奪愛とか余計燃えちゃうっていうかまず名前教えてください」
「(何なんだコイツは)これ、落としたぞ」
超タイプのドストライクお兄さんが綺麗すぎる右手で渡してくれたのはあたしの某ブランドの定期入れだった。
「あ!ありがとうございます!これないと帰れなかったってことでお礼と言っちゃなんですがお茶しませんか?ってかむしろあたしを彼女にしませんか?」
「(変な奴の定期入れ拾っちまった)いや、遠慮する」
「そんなこと言わずお茶くらいいいじゃないですか!あ、もしかして彼女居るんですか?そうなんですね!でもあたし気にしませんよ!彼女が居たって奪えばいい話ですしむしろそっちのが燃えるし浮気は浮気で興奮しちゃうし」
「お茶するからもう黙れ(最悪だ、本当に最悪だ)」
「わわわあ!ありがとうございます!じゃあ何食べますか?あ!この先に最近出来たばっかりのカフェがあるんですけどそこでいいですか?それともちょっと路地に入ってホテル行きますか?」
「(ぜってェコイツ危ねェ!)カフェでいい」
「わかりました!そこね、すっごいケーキがいろいろあってコーヒーが美味しいんですよ!あ、そういや名前まだ聞いてませんでした」
「ローだ」
「ローさんですね!素敵ですね!ちなみにローさん名字はなんていうんですか?」
「トラファルガーだ」
「わあ!あたしがなりたい名字ナンバーワン!ってことで結婚してください!」
「……」
「結婚式はやっぱり教会がいいですよね!友達もいっぱい呼んでお色直しのドレスは5着くらい着て新婚旅行は世界一周なんてどうでしょう?ちなみに子供は女の子と男の子1人ずつは最低欲しいですよね」
「‥悪ィ、帰る」
「何でですか!?あ!ほらカフェ見えて来ましたよ!一緒にパフェ食べましょうよ!」
グイグイとローさんの腕を逃がさないとばかりに引っ張り、店内に入った(これは運命よ!そうに決まってるわ!)。
いらっしゃいませー、なんて店員の柔らかい声を聞いて、2名様ですねー、と窓際の席に案内された。
「ビッグパフェください!あ、ローさん何か飲みますか?」
「‥コーヒーを」
かしこまりました、と店員が去ったのを確認して、あたしは正面の席からローさんの隣へ移動した。
若干ローさんが離れた気がしたけど、お構い無しにその腕に腕を絡ませた。
「ローさん!これは運命ですよっていうか宿命?とにかく二人で薔薇色ハッピーライフを送りましょう!」
「……」
「それともローさんは心に決めたお相手でもいらっしゃるんですか?」
「いや、別に‥」
「わわっ!それなら良かったです!あたしたちの愛に障害はないって訳ですね!あったらあったで萌え、違う燃えたけど」
「(帰りたい)」
「ローさんは押し倒されるのと押し倒すのどっちが好きですか?あたしとしてはやっぱり押し倒されたいっていうM心があるんですけどローさんがMだっていうならあたしはSになりきってみせますよ!」
「そろそろ黙れ」
「ええ!?やっぱりローさんはSでしたね!今のセリフとか鼻血吹いてもいいですか?いいんですよね?」
「わかったから、頼むから黙ってくれ」
「照れてるんですね!ローさんったら可愛いんだからァっ!!」
「はあ‥あ、」
「え?」
ローさんの左手が伸びてきて、あたしの髪に触れて、
「ひゃあっ!」
「え」
「え、あ、や、ごめんなさいっ」
「あ、あァ‥悪ィ、髪にゴミついてたから(なんだ今の無駄に可愛い声は!)」
「いいいえっ!こちらこそ、ありがとうございますっ‥」
「……」
「……」
「‥(ちょん)」
「ひゃん!」
「(か、可愛い!)」
「ご、ごめんなさい‥っ」
「あァ‥(なんだコイツは?まさか自分から触るのは良いが触られるのは‥)」
「(あたしとしたことがなんて声出してるのよ!いくら触られるのが苦手だからって‥その照れ隠しに自分から触ってたなんてバレたくない!)」
「お前さ(つん)」
「はうっ!」
「(やべェ、ハマった)触られるの嫌いなのか?」
「嫌いじゃないですよ!そんな訳ないじゃないですか!」
「ふーん(つんつん)」
「やあっ!」
「(にやり)」
「(うぅ‥)ロ、ローさん」
「なんだ」
いろんなゴタゴタのせいで離してしまっていたローさんの右腕に、もう一度自分の右腕を絡ませて、
「いただきます」
「は?ってお前どこ触ってんだ!」
「ローさんの」
「言うなぁぁぁあああああっ!!!」
触られるより触りたい
(あなたにロックオン!)
「お、お客さま‥」
「(ちっ)あ、ローさん!あーん!」
「(ぜぇぜぇ‥)か、帰る」
「逃がしません!(ガシッ)」
「離せ!」
「やです!あたしを汚した責任取ってください!」
「なっ!?」