Chapter 2-10
すっ、と差し出されたのは、スィルツォードが受け取ったカードとはまるで違った。
磨き上げられたような銀色。背景にマークがあることと、名前、ナンバー、ランクが載っているのは同じだが、デザインがずいぶんと洒落ていた。字体もイタリックで小気味よい。見比べると、自分のカードがずいぶん貧相に見える。記されたナンバーは"019"、ランクの欄には"Silver"の文字。
「おおっ、なんかかっこいいな!」
「そうだろうか?悪い気はしないが……」
「っていうか、"No.019"って古参とかいうレベルじゃないと思うんだけど……」
「一応ギルドが立ち上がった時から所属しているからな。このくらいのランクにもなるさ」
返されたカードをしまいつつ、セルフィレリカは当たり前といった様子で答える。
「ものはついでだ、ティマリールたちもスィルツォードに見せてやってくれないか?」
「ん、別にいいけど」
「あ、あたしもですか……?」
「わたくしでよろしければ……」
セルフィレリカの提案に、ティマリールたちから三者三様の反応が返ってくる。が、動作は一つであった。皆が同じようにカードを取り出し、スィルツォードに見せる。
「あれ……みんな色が違うな。ティマリールは黄色、リーゼは赤、ミストは青か」
ここまで自分を含めて六人、誰一人同じようなカードを持たないことに、スィルツォードは少しばかり驚いた。
と同時に、こんな疑問が湧き上がる。
「……ランクってさ、どういう順番なんだ?」
「ああ、そう言えば言ってなかったかな。簡単に説明しようか」
問いに答えたのはセルフィレリカ。
「このギルドには色で分けられた十のランクがある。一番上はまあ除くとして、下から順に白、黄色、橙、赤、青、紫、黒、銀、金の順だ」
「へぇ…ってことは、この中だとセルフィレリカが一番ランクが高いんだな」
「そうなるな。ただ、それはわたしが一番古くからいるから、というだけだ。ここではランクによって付き合いがあるわけじゃない。今の状況を見てもらえれば分かるだろう」
確かに。
これだけばらばらのランクの持ち主が、現にこうしてひとつの場所に集っているのだからそうなんだろう、とスィルツォードは頷いた。
「さて……これからわたしたちはクエストに向かうが、みんなはどうするんだ?」
「ボクはちょっとここで休憩かなー」
「わたくしとリーゼはお茶の最中ですゆえ……」
「僕はちょっと街に出て、色んな店を巡るつもりかな」
「なるほど、各々予定があるわけだ。みんな邪魔をしてすまなかったな」
「いえ、またお会いしましょう」
「気をつけて……いってらっしゃい」
「ありがとう。みんな、またな!」
スィルツォードとセルフィレリカの二人は、集団から別れて階段へと向かう。その途中、背後から飛んできたティマリールの声。
「スィルもクーちゃんも、まったねー!」
ぴくり、とセルフィレリカの顔が動いたのを、スィルツォードは見逃さなかった。
「ティマリール……その呼び方はやめろとあれほど……はぁ」
彼女と出会ってから最も深いため息であった。
「クーちゃん……ってやっぱりセルフィレリカのことだったのか」
「あぁ……わたしの名前はミドルネームが一番短いから、きっとそこから取ったんだろうが……」
なるほど、"クード"の"クー"か。いや待てよ、"クール"だからじゃないのか?
スィルツォードは声に出さずに、想像を膨らませる。
「あの呼ばれ方は気に入らないのか?」
「気に入らないわけではないが……慣れないんだ。どう反応していいか困ってな……わたしは少し彼女が苦手なんだ」
「そうなのか……なんていうか、ティマリールの呼び方って変わってるよな」
「あぁ、しかしなぜキミだけはちゃんと名前で呼ばれたのか……不思議だ」
「そう言えば、オレはちゃんとスィルって呼ばれたな……」
「彼女曰く、人の名前は覚えるのが苦手だから、分かりやすい呼び方をつけているらしい。キミの名前はむしろ覚えにくいほうだと思うんだがな……」
「まあ……それはオレも思うけど……」
ベネルテ家に世話になり始めてからしばらくは、マリーとジンもよく自分の名前を噛んでいたことを思い出す。
「彼女のことだから、特に深い理由は無いのだろうが……」
「だといいけど」
階段を下りる手前、ちらりと振り返ると、気付いたティマリールが手を振ってきた。とりあえず振り返し、下に下りていく。
「それはそうと、さっき顔を見たメンバーはこれからも接点が多くなるだろうから、覚えておいて損はないぞ」
「なんで?」
「わたしと付き合いがあるからだ。しばらくわたしと行動するなら、自然とキミも彼女らと話す機会が増えるだろう」
「なるほど。ティマリールにリーゼ、ミスト、それからセレンか。覚えておかないと」
指折り数え、スィルツォードはさっき見た顔を思い出しながら呟いた。