Chapter 2-3
「……あれは?」
「ん? ああ、登録所か」
「登録所……?」
思わぬ答えが返ってきたことに、スィルツォードは首を傾げる風に訊き重ねる。
「元々ここは冒険者たちの職業登録所だったらしい。魔王バラモスが君臨していた頃、アリアハンじゅうの勇者たちがこぞってここからやり手の冒険者を引き抜いていったって話だ」
「へぇ、そんなことがあったのか」
「その後に、バラモスが倒されて勇者がここに来る必要がなくなった時から、登録所はいったんは廃れてしまったんだが……ギルドの方針で、ここを再活用しようという話になったらしい」
「らしい?」
「実のところ、わたしもこの話は伝え聞いただけだからな、言い切ることはできない」

そう言って、コーヒーをまた少し飲むセルフィレリカ。
「よかったら、キミも登録しておくといい。まあ、今すぐにというわけでもないが」
「登録すればどうなるんだ?」
「そうだな……一応、形としては、ここに登録しているメンバーは国が認めるギルドメンバーということになるな」
「国が認めると何かあるのか?」
「一番重要なのは、冒険者ランクが得られることだ。詳しく言えば、ギルド自体には「入ります」の一言で簡単に加入できるんだが、登録所に手続きをしなければランクが与えられないから、依頼も最低レベルのものしか受けられない」
「そうなのか」
「ああ。他にも、職業ごとの衣服、アクセサリーは最低限のものは支給されるし、受けた依頼の危険性によって回復薬を何個かもらえたりもする」
「なるほど…そりゃ登録するっきゃないよな」
至れり尽くせりじゃないか、とスィルツォードの目が明るくなる。これを利用しない手はないというのは、千人いれば千人が認めるところだろう。
だが、彼にはひとつ、不安を残す点があった。
「あ、でもオレ、無職だけど大丈夫か?」
「そこは問題ないだろう。衣服の支給はともかく、その他のサポートはしっかり受けられるはずだ」
「よし、じゃあ善は急げ、今から――」
話を聞いて安心したとばかりに、奥のカウンターへと向かうスィルツォードだが、背後から「まあ待て」と冷静に引き止められ、その足を止めた。
「ルイーダさんが来たぞ、先にそっちに行くべきだ」
「あ、そうだ、忘れてた」
危ない危ないと、彼は数歩分を引き返す。そこには確かに、ルイーダの姿があった。
「すまないね、ちょいと庶務に手間取っちまってね。さあ、説明するから、ついて来ておくれ」
踵を返し、ルイーダは階段を下りて行く。慌ててついて行くスィルツォードは、まだ席についているセルフィレリカに「ありがとな」と声をかけた。
「じゃ、また後で!」
「ああ。キミのコーヒー、なかなか美味しかったぞ」
その声に右手を挙げて応え、彼も階段をタンタンと下りた。


「さて……一応、クエストの受け方についてだけ、軽く説明するからよく聞いとくんだよ」
「はい、よろしくお願いします」
一階に下りてきた彼らは、カウンターの端、壁に近い場所に陣取った。
「まず、そこのボードを見てくれるかい」
すぐ側の壁を指され、スィルツォードがそちらに目を向けると、そこには数え切れないほどの紙切れが、針のようなもので押し留められていた。
「これはクエストを張り出すボードで、紙切れの一枚一枚には依頼の内容と報酬が書き込まれてる。ランクが限定されてる場合もあるんだけど、そういうことも書かれてるからね。で、メンバーはこの中から自分の好きな依頼を選んで、カウンターまで持ってくるわけなんだけどもね、ここでひとつ」
ルイーダが人差し指を立て、スィルツォードに注意を促した。
「カウンターに持ってきて確認を取った時点で、そのクエストを受けたことになるから気をつけるんだよ。そこから先、依頼をキャンセルするとペナルティがあるからね」
「ペナルティ……って……?」
「具体的には、いくらかのキャンセル料金と、場合によってはランクダウンもある。つい昨日も、というか毎日ランクダウンするヤツはたくさんいたからね、受けるクエストはよく考えることだね」
「なるほど、気をつけます」
「それと……あとは報告だね」
ルイーダはカウンターの方に移動し、スィルツォードとカウンターを挟んで向かい合う形をとった。
「依頼を達成したら、基本的にはその証拠を持ってきて欲しいんだよ。討伐依頼ならその敵の爪だとか、調達依頼ならその道具や武具って具合にね。それをカウンターで確認して、報酬を受け取る。たまにランクアップ。こんなとこだね」
「はい」
「よし、これで終了。後は好きにしてくれて構わないよ」

……えっ? 終わり?

懸命に話を聞いていたスィルツォードにとって、それはあまりに唐突な終わり方だった。
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