Chapter 2-2
「おはよう。セルフィレリカ、だったよな?」
彼女が座る席に近付きつつ、そう声をかけてみる。すると、彼女はふっと顔を上げ、スィルツォードがすぐそこに来ていることに気がついた。
「ん? あぁ、キミか。すまないな、ちょっと考えごとをしていたもので……」
どうやら良くない方向の考えごとらしく、セルフィレリカははぁ、とやや重い息を吐いていた。
「考えごと?」
「あぁいや、キミに関わる話じゃないんだがな。ほんの些細なことだよ」
「……なんか困った顔してるな」
「少しな。まぁ……多分話さずとも、二、三日のうちにすぐに分かるさ。もしかしたら今日かもしれないが」
セルフィレリカは少し首を振って、立ち上がる。そうして、昨日と同じようにスィルツォードに聞く。「コーヒーでいいか?」と。
「あぁ……あ、いや、ちょっと待って」
一度頷きかけたものの、思うところがあってか彼はセルフィレリカを呼び止める。
「あのさ、今日はオレにやらせてくれないか? ちょっと新しい場所と設備やらに慣れたいからさ」
「なるほど、そういうことならお願いしよう。そこの角にカウンターがあるだろう。そのすぐそばにドリンクバーがある。ああ、わたしはキミと同じものでいい」

「うん、いい香りだ。甘さもちょうどいい。キミはなかなか筋があるな」
「こんなことで褒められたのは初めてだよ。まあ、悪い気はしないけどさ」
思いのほか色々な飲み物が揃っており、何を飲もうか迷ったあげくコーヒーに落ち着いたスィルツォード。
セルフィレリカも満足そうだし、まあこれでいいんだろうと自分に言い聞かせる。一応飲み物の調達方法は理解できたことだし。
「さて……今日からキミはわたしたちと一緒にここで働くわけなんだが、ひとつだけ」
右の人差し指を立てて、彼女はそう言った。
「ん……?なんだ?」
「たまたまわたしがキミを店の前で見つけてから、こうしてガイド役になっているわけだが」
「ああ、それで?」
「色々分からないことが出てくるだろうが、そういう時はルイーダさんかダンケールさん、それかわたしに訊いてくれ。ギルドメンバーの中ではわたしは古参でな、ここのギルドの勝手は大体心得ている」
「そっか、分かった。頼りにさせてもらうよ」
「ああ、期待に添えるよう努力しよう。それとだ……」
「それと……? なんだ?」
コーヒーを少し含んで、セルフィレリカは続ける。
「こちらからは特にああだこうだ言わないことにする。何から何までわたしがついて教えるというのも面倒なことだろう? キミにとっても、わたしにとっても」
スィルツォードは、彼女の言わんとしていることが大体分かった。つまり、彼女は自分だけの時間を少しでも与えようとしてくれているわけだ。
「うーん、まだ勝手がよく分からないからどうなんだろう。まあ、自分のできる限りで精一杯やるつもりだけどさ。確かに17にもなって、ずっと誰かにくっついてるってのも変な話だよな」
「ああ、わたしの言いたいことを言ってくれたな。つまりはそういうことだ。だから――」
一度言葉を切って、セルフィレリカはコーヒーを一口飲んだ。
「もし分からないことがあるなら、キミから訊いてきてくれ。ああ、ちなみに雑談や依頼の話の時は普通にわたしからキミに近づくこともあるだろうが、まあ気にせずのびのびとやってくれればいい」
「なるほどな、オッケー。いろいろありがとな」
「なに、このくらいはお安い御用だよ。……さて、手筈ではじきにルイーダさんが上がって来るんだが……まだ来ないらしいな……」

ひとしきり話題が完結したところで、セルフィレリカはぐるりとフロアに目を配る。人気はほとんどなく、木造の丸テーブルと椅子が整然と並んでいた。
彼女と同じようにスィルツォードも周りを見てみる。と、部屋の隅にある小さめのカウンターが目についた。
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