Chapter 1-7
「オレ、新しい仕事を見つけたんだ。今度は絶対に長続きする、オレにぴったりの仕事をね」
スィルツォードの言葉には確固とした自信が見えていた。その表情を目にして、夫妻はそろって目を丸くする。
これまで、新しい仕事が見つかったと二人に言ったことは数え切れないほどあるわけだが、彼が「次の仕事は長続きするだろう」とここまで言い切ったためしはかつてないからだ。
「そりゃ楽しみだ。一体次はどんな仕事なんだい?」
ジンにとっては、これまでで初めてスィルツォードの口から聞かされた言葉である。内容を訊くのは当然だ。

その問いに対して、スィルツォードは簡潔な答えを返した。
「……ギルド」
「ギルド? 街の入り口に構えてるギルドのことかい?」
「そう。そこのメンバーになることにしたんだ」
「ギルドなんて……大丈夫なの?」
スィルツォードとしては淡々と進んだ話を語る感覚であったが、マリーには心配の色が見えた。というのも、ジンとマリーを含め下町の人々は基本的にギルドに干渉することがあまりなく、その実態もほとんど雲の中のような状態になっているからだ。
そんなマリーに、スィルツォードは笑って答える。
「大丈夫だよ! 向こうには親切な人もいるし、うまくやっていけると思うんだけど……やっぱ反対かな?」
マリーの反応を見て少し不安になったスィルツォードがそう聞くと、二人は首を横に振った。反対はしない、と。
「スィルの人生はスィル自身のものだ。何をしようと決めて行動するのはスィルの意思だからね、わたしたちにそれを止める権利なんてないよ」
「しっかりやってくるといいわ。でもねスィル、あなたの身に何か起こることで悲しむ人たちがいるってことはしっかり覚えておくのよ」
「……分かった。おじさん、おばさん、ありがとう」
二人の言葉には、息子に対する愛情がこもっていた。それをわずかながら感じ取れたのだろうか、スィルツォードの言葉には深い感謝がにじみ出ていた。

「そういえば、ギルドで働くってことだけど、こっちには帰ってくるの?」
「うーん……そこなんだよ。特に何もなければ帰ってこれるとは思うんだけど、受けた依頼によってはどうだろ、帰ってこれない日ができたりするかも……」
「そう……」
微妙な答えに、マリーは言葉少なに呟く。

それからしばらくの沈黙が流れたのち、今まで思案顔だったジンが突然こんなことを口にした。
「……スィル、おまえにはギルドでしっかり働く決意はあるかい?」
「もちろんだよ。今までずっと失敗続きだったけど、今度こそはって思ってる。……信じてもらえるか分かんないけど」
「はは、信じているさ。こうまで真剣なスィルを見るのは初めてな気がするしね。さて、スィルの決意の強さは分かった。じゃあもうひとつ訊こう。わたしたちに、月に一度手紙をよこしてくれるかい?」
「……え?」
予想外の質問だった。その意図をスィルツォードが汲み取るよりも先に、言葉の意味を把握したマリーが割って入った。
「ちょっとジン! それはスィルをこの家から追い出すってこと……!?」
「えっ……追い出す?」
「やめてくれマリー、人聞きの悪い」
違う違う、とジンは首を振って否定する。そうしてから、彼は言葉の真意を説明した。
「スィルはもう17歳だ。いつまでもわたしたちが過保護では、スィルにとって良くないだろう。スィルにその気があるのなら、わたしたちはスィルが少しずつ巣立つ手助けをするべきだと思うんだが」
「……おじさん……」
「スィル、わたしはおまえが自立して立派な人間になるための援助は惜しまないつもりだ。マリー、きみもそうだろう?」
「もちろんよ。……そうね、この家に戻ってくるか、一度離れてみるか、スィルが決めなさい。そのことに口出しはしないわ」

彼は今までにないくらい真剣に、この話に向き合った。二年もの間、赤の他人のはずだった自分を引き取り、育ててくれた二人。いつまでも彼らのスネをかじっているわけにはいかないだろう。

――これは、二人への恩返しの最初の一歩だ。
彼はそう考えた。

「おじさん、おばさん」
二人は声の方へと顔を向ける。
そこには、二年の時を経て成長した息子の姿があった。
「オレ、頑張ってみるよ。ギルドのみんなと一緒に、頑張ってみようと思うんだ。手紙もきちんと書くよ」
マリーとジンは顔を見合わせ、頷く。これ以上、何に口を挟む余地があろうか。
「分かった。スィル、しっかり頑張ってくるんだよ」
「疲れたらいつでも帰ってきなさいね。ここはもうスィルの家なんだから」
「……うん。ありがとう」

スィルツォードは多くを返事できなかった。
口を開けば……そう、涙混じりの声が二人に知れてしまうからだった。


【To be continued】
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