Chapter 3-9
アリュード「…ごめん…訓練を抜け出して、ずっと絵を描いてたんだ」
アルム「絵を…?」
アリュード「…うん、そう」
アリュードは側にある鞄の中から、スケッチブックを取り出して開いた。そこには、ルプガナの町の風景や、行き交う貿易船、広大な平原、そして深い森の木々が見事なまでに描写されていた。
セリス「まったく、相変わらずすげえな。でも、もうごまかしは聞かないぜ?」
アリュード「えっ…?」
セリス「残念だけど俺たちは、お前の絵を見に来たんじゃない。お前を助けに来たんだ」
アルム「だから、良かったら訓練に出ない理由を…教えてくれないかな?」
アリュードの心が、少し動いた。なぜ、この2人はこんなに親身になってくれるのか、疑問だった。それでも、その優しい2人に、アリュードは自分の思いを打ち明けずにはいられず、堰を切ったように話し出した。
アリュード「僕は…好きでここに来たわけじゃないんだ。別に強くも賢くもないのに、親に無理やり連れて来られて…だから、最初の訓練からついてけなくてさっぱり分かんなくて、僕には無理だって思って…!」
最後の方は、涙声だった。教習所での生活が始まって、アリュードが初めて明かした本音だった。アルムとセリスは顔を見合わせ、アリュードに話し掛けた。
アルム「…本当のこと、言ってくれてありがとう」
セリス「ああ、頼られてる感じがしてちょっと嬉しかったぜ」
アリュード「い…いや…」
アルム「…でもさ、やる前から諦めてちゃ、何にも変わらないよ?」
セリス「ああ。訓練で何か失敗しても、俺たちがちゃんとフォローするじゃねーか。な?」
アルム「もちろん!」
はっとして、アリュードは2人に目を向けた。そこには、紛れもない「仲間」の2人の笑顔があった。
セリス「無理やりこんなとこまで来て、色々と辛かったろ。みんなのとこに帰る前に、思いっきり泣いとけ。でないと、またからかう奴がいるからな…」
アルム「うん、それまでぼくたちがここにいるからさ」
アリュード「2人とも…ありがとう…っ…」
アリュードは俯いて、体を震わせた。その目から落ちた透明の滴は、スケッチブックに吸い込まれた。