Chapter 37-20
アルム「…え?」
予想だにしていなかったこの場での質問を飲み込むのに、アルムは十数秒を要した。
アルム「何の、ためって…」
キース「難しいか。なら質問を変えるぜ。お前がオメガを倒そうとする理由は何だ?」
アルム「…それは、世界を壊されたくなくて、守りたいから…」
キース「違うな。お前はそんなに器のでかい人間じゃねーよ」
アルムが出した答えを、キースは首を振って退けた。
キース「俺だってそうだ。あの時…ゼノムを倒した時だって、俺は最初から「世界を守る」とは思ってなかった。口には出しても、心の中じゃ別の理由が頭にあった」
いまだに7人がオメガを攻め立てているのを確認すると、キースはアルムに顔を戻した。
キース「アルム、冷たい言い方かもしれねーが、お前は会ったこともないどこぞの人間全部の命を、自分を犠牲にしてでも救いたいと思えるか?」
アルム「っ…それは…」
キース「無理だよな。じゃあ結局、お前が本当に守りたいと思っているものは何だろうな?」
それを聞いた時、アルムは頭の中には色々な人や物の影が渦巻いた。美しい水が流れるベラヌールの街。活気溢れるルプガナの街。故郷で自分を待っている家族。そして―――今、一緒に戦っている仲間たち。
アルム「…そうか、ぼくは…」
キース「分かったみたいだな」
アルムがそのことに気付くと、キースは歯を見せて笑った。
キース「世界全部を守れる人間なんかいない。今この時、誰かが病気で死んでれば誰かは事件で殺されてる。誰かは自分で命を絶ってるかもしれねー。でも、知ってるヤツを、知ってるモノを守りたいって言えるなら、それはデカい力になるぜ。あの時の俺も、きっとそうだったんだ…」
その言葉は、アルムだけでなく他の11人の心にも響いた。キースが話すのを止めた時、7人も攻撃を止めた。もはや血まみれ、体の何ヶ所かに穴が空いてすらいたが、オメガは平気な顔で立っていた。
オメガ「7人でこの程度か…それでは我は倒せぬな…」
一見満身創痍なように見えるが、勝利を確信したような笑みを見せるオメガ。
ラルド「奴はおそらく、体内のどこかに核のようなものを隠しているはずだ。それを破壊できればオメガは倒れるだろうが、破壊しない限りいくら傷を与えても無駄なようだ」
ラルドたち7人の表情には疲労の色が見えていた。するとキースは顔を上げて、アルムの肩をぽんと叩いた。
キース「…アルム、行くぜ!」