Chapter 37-1
空から現れた8人を認めたアルファは、咆哮一つでモンスターの大軍を制した。するとどういうわけか、あれほど殺意を剥き出しにしてアルムたちを引き裂かんとしていたモンスターたちは一挙に動きを止めた。これも、彼らが強化される上でプログラミングされたことなのだろう。しかし今は、そのような些末なことに目を向けるいとまはない。

アルファ「…そろそろだと思っていたわ…ずいぶん久しぶりな顔も見えるわね?」

オメガの体から、アルファはあくまで静かな口調で言った。対して、こちら側の助っ人たち―――もはや言う必要もないだろう―――も冷静に返した。

ラルド「我々は実に迂闊だった。冥王ザルグ…奴が、よもや不変の真理と思われていた時の流れを操る力を得ていたとは予想だにしなかった」
アルファ「予想できる方が異常よ。もっとも…そういう事態もちゃんと頭には入れていたけれど」
キット「さらに自責すべきは、3年前に永遠の友情を誓い合った友を、易々と心中で切り捨ててしまったことです。その償いのためにも、我々は命を落とすことも厭わない覚悟でこの戦いの場に立っています」
アルファ「こちらとしても意外だったわ、まさか彼が二重スパイだったなんて。完全にザルグが丸め込んだと思っていたけれど…その友情とやらにはかなわなかったみたいで?」

オメガのアルファは1つ小さく息を払うと、かっと怒りを含むの目を見開いて吐き捨てた。

アルファ「…虫酸が走る!!」
ラルド「………」
アルファ「くだらない、そんなもの私は認めない。全てを導くのは全てに勝る力…その力がどんな力であろうと、それを持てる者にしか栄光は掴めない。そんな廃れた人間社会に、私はほとほと嫌気がさした…!」
クラリス「それは違うわ。私たちはむしろその社会を改善して是正していく立場…各地に設けられている戦闘法教習所もその1つだわ。未来に向かって、心身共に強さを身につけた12人が、今あなたの目の前に立っているはずよ!」

クラリスはアルムたちを指してきっぱりと言った。しかしその言葉にもアルファは耳を貸そうとしない。

アルファ「戯言だわね…そういう場所から出た者こそ、他を踏みにじって餌食にして、生き残っていくんじゃない。これ以上醜い弱肉強食の世界はないわ!」
アレク「万が一にも君の言う通りだとしても、君のやり方は間違っている。世界全てを破壊したところで、またいつしか世界ができて人間が生まれて、同じことを繰り返す。なんにも変わらないんだ。君の持論を通したいのなら、君自身がいない世界を作ろうとしているのは完全な矛盾だと気づかないかい?」
アルファ「その程度の矛盾など、今の世界の矛盾に比べれば、取るに足りないものよ。私はその全ての矛盾を清算するだけ…」

頑なにその主張を通すアルファに対して、最後に口を開いたのはキースだった。

キース「…お前は問題を履き違えてるぜ。人間の行為が愚かだっていうなら、お前たちグループのしてきたことは何だ?暗殺だなんて、それこそ人の道に外れた非行じゃねーか。それを棚に上げてつらつら喋ってたが、俺たちはそんなこじつけで納得するような頭は持ってねーんだ。この世界に嫌気がさしたのなら1人でどうにかすればいい。結局お前がやろうとしてることは、これ以上ないほどに性質の悪い集団自殺だ。俺たちは、そんなことを赦すつもりはさらさらねーぜ…!」

何も言わないセルとルイも、その言葉に頷く。が、やはりアルファは首を振っていた。

アルファ「…互いに、意見に妥協を許す気がない以上は、力をもってねじ伏せるしかないみたいね。私の邪魔は…誰にもさせない!」


その瞬間、今まで大人しくなっていたモンスターたちに、再び満ち満ちた殺気が戻った。
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