Chapter 36-16
そんなはずはと辺りを見回してみるも、新たに現れるモンスターもなければ、目の前のスライムたちが分裂し増殖するわけでもない。
つまり―――これまでのこちらの攻撃で、スライムたちがほとんど倒れていない。
ルージャ「どうして…スライムなのに…!?」
エド「ルージャ、ノイル、とにかくおれたちは攻撃し続けるんだ!」
ノイル「うっ…うん!…イオナズン!!」
9歳の子供が到底使えるものではない呪文を、簡単に唱えて放つ。それでも、大爆発の後に巻き込まれたモンスターたち全てを倒すには至らない。むしろ倒れたのはほんの1、2割だった。
レイシア「…そうだ、そうだわ…!」
皆が奮闘する中で、自身も拳や脚を振るっていたレイシアが何かを悟った。
レイシア「みんな、全力で攻撃するのよ!手加減なんてしなくていいわ!」
セリス「何言ってんだ、ここで体力を温存しとかねーと、アルファにまとめてやられるぞ!」
レイシア「まだその方が、スライムの山にうずもれるより格好がつくでしょ!」
セリスはその答えに何かを感じた。
―――セリフと気持ちがちぐはぐだぜ、レイシアさんよ…。
セリス「…よっしゃ、任せろ!」
アルム「待って、セリス!」
まさに瞬速の一撃を見舞おうとしていたセリスはアルムの声につんのめった。
セリス「…んだよ、今からやるってのに」
アルム「ぼくに任せて。動かなくていいから…」
アルムはそう言うと剣を高く掲げる。セリスはそこで初めて、アルムの剣が変わっていることを知った。
アルム「…くらえっ!!」
掲げられた剣から、凄まじい雷が迸る。埋め尽くすほどに群がったスライムたちは、連鎖を起こすように感電していく。
セリス「でっ!?なんだよ今の…!?」
レイシア「雷撃呪文…ギガデイン?」
アルム「みたいなんだ。天界王さまがくれた剣なんだ」
セリス「…そうか、お前はやっぱり「選ばれし者」なんだな…」
返事の代わりに、アルムは1つ頷いた。
体力を残そうと考えずにひたすら攻め立てた結果、モンスターたちはどうにか全滅させた。
タア「ったく、手ぇかけさせやがって…」
アンナ「あんた、ビッグバンなんて使えたんだね、見上げたもんだよ…」
アリュード「撃った後が大変だったみたいだけどね…。ビッグバンって自爆技なの?」
タア「…やかましい」
タアに傷がないところを見ると、おそらくはノイルに治してもらったのだろう。
しかし、そんな雑談をしている猶予はなかった。
レイシア「…みんな、大変よ。アルファがいないわ…!」
ユリス「なんですって…!?」
ルーナ「うそ…!さっきまでそこにいたのに…!?」
姿を消したアルファを探し、きょろきょろと見回る12人。と、その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ………!!
アリュード「…何、何が起こったの!?」
リズ「いけない、城が崩れるわ!」
セリス「みんな、急いで脱出するぞ!!」
慌てふためきながら、出口を目指して階段を駆け下りていく。既に瓦礫が頭上から落ちてきており、時間の猶予は全くない。
エド「おわーーっ!!」
最後尾のエドが脱出してから数秒後、新世界にそびえた城は呆気なく瓦礫の山と化した。