Chapter 36-12
そしてその一方で、彼女はその未来を見る能力により、2つの予言を得ていた。「アルムという名の者が自らを脅かす存在になる」「最も古より在る大国の力が強大になる」というものであった。アルファはこの時既に、「世界を壊す」という自問にたいする自答を得ていたので、まずはこれらを押さえるために動いた。
前者については、新設されるルプガナ教習所にアルムという名の少年が呼ばれたことを知り、これに間違いないとして、ザルグに協力を仰いだ。ザルグはなかなか切れていた。手始めに精霊ルビスに最も近いと言われる存在の天界王を操り、偶々居合わせたレイズにエドのスライムを捕らえさせるという回りくどい方法でアルムをおびき寄せにかかった。ところがレイズには無二の親友であるセイファーがいたことが多少の誤算だった。彼はすぐさまアルムたちに助けを求めた。そのため、計画は失敗、レイズは正気に戻ってしまう。
しかし何より予想外だったのが天界王、ひいては精霊ルビスのしぶとさだったという。力試し程度にザルグが与えた力に加えてさらにルビスがアルムを後押ししたため、アルムは正誤に関わらず「選ばれし者」として十分な力を得てしまった。余談ながら、このためにルビスは成り行きでアルムに託す形をとった。
後者のお告げについては、ベータが尽力した。あれだけ大きな国を外力で破壊するのは至難の業として、変身の能力を操り、内部から城を乗っ取った。通行証制度を導入したのも、ベータが化けた大臣エルガであった。こちらについては、結果的にベータが死ぬこととなったが、ラダトームの抑圧という点では計画通りだった。
加えて、時折ガンマの魔物を操る能力を駆使し、モンスターを巨大化、凶暴化など、様々なことを試行し、最終的には研究所において強化するという形に落ち着いた。
それら諸々の経緯があって、アルファはこうなったと話した。そうして、自分1人しか残らなかったのも、今となってはさほど気にはならないことだと付け加えた。
アルファ「こんなところね…これでいいかしら?」
アルム「ロエンの話が入ってない。ぼくはてっきり話すと思ったんだけど?」
アルファ「ロエン…ね。顔も名前もうろ覚え、一緒に暮らしたのもほんの少しっていう母親の連れ子だったもの。形式的には義弟か何か知らないけど、私からすればただの他人よ。それでも、向こうは私を知っていたから、利用はできそうだとは思ったわね。実際少しは役に立ってくれたかしらね。最後に裏切りさえしなければ、殺さずにすんだのに…残念」
そう言って、アルファは口元をわずかに上げた。その不気味な笑みには、もはや彼女もまた1人の人間であることを認めるには疑わしいような色さえ含まれていた。