Chapter 36-10
レイシア「何がおかしいのよ!」

真面目に言った言葉を笑い飛ばされたレイシアは、むっとしてアルファに突っかかった。アルファはしばらくして笑いを止めた。一転冷ややかな表情に変わった。

アルファ「あなたが言う「卑怯な手」って言うのがもし檻に閉じ込めたことなら、私はあなたの思考を疑うわ」
レイシア「なにを…!」
アルファ「もしあなたが1人で、10人以上の敵を相手にする立場なら、何の策も打たずに敵の中に突っ込んでいくって言うの?」

レイシアは言葉に詰まった。アルファの言うことが完璧に的を射ていて、言い返せなかったのだ。

アルファ「…ほらね、人間はみんなそう。口ではなんとでも言いながら、結局最後には自分中心の考えしかできない生き物。これ以上軽蔑すべき存在は、他にないわ」
アンナ「軽蔑だって…!?」
アルファ「そうよ。人間は皆、魔物たちを平穏を害するものと忌み嫌う。でも、魔物たちからすれば人間こそ、住処を略奪する憎い存在なのよ」
セリス「待てよ、あんたも俺たちと同じ人間じゃねーのか?その言葉は、あんた自身の存在を否定してるんだぜ?」

淡々と話すアルファに対して、今度はセリスが檻越しに食ってかかった。しかしアルファの口調は変わらない。

アルファ「その通りよ。今の世界の中では、私は私自身を軽蔑しているわ。人間なんかより魔族だった方が、何倍も良かったって思っているもの。だから、私は新しい世界に創り変えるの。人間が他を侵すことのない、自然の世界にね…」
セリス「矛盾してるな。あんたのその計画こそ、1人の人間の自己中心的な考えだろーが。そんなことしたら今の世界に生きてるものはどうなる?人間が全体のほんの1%にすら届かないような数の生き物が、この世界で生きてんじゃねーのか?」

セリスの言葉は、一見正しかった。少なくとも、仲間たちには全くもってその通りに思えた。ところがアルファは、ゆっくりと口を開き、こう言った。

アルファ「…いいえ、矛盾はしていない。私もまた人間…自己中心の考えが拭い去れない生き物なのよ」

セリスは半ば呆れた。この女、正気じゃないと。

セリス「だったら新しく世界を創る意味がねーだろうに。あんたは新しい世界でも「軽蔑すべき」生き物として生きるってのか?」
アルファ「いいえ、それは違うわ。新たなこの世界に、私はいない。私は今の世界と一緒に、死ぬのよ」


その瞬間、12人全員の顔色が変わった。
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