Chapter 33-10
キース「タアをあんな目に遭わせた仕返しはさせてもらわなきゃな…行くぜ!」
瞬間、キースが消える。しかし、剣で斬りつける音が響かない。
いや、キースは確かに斬りつけていた。それも、6人にはまるで見えない速さで。しかし、ザルグの纏う気が、その攻撃を全て弾き返していた。
ザルグ「…何をしている?それが貴様の言う「仕返し」か?」
ザルグはそう嘲笑して、それから神速の蹴りをキースに入れた。蹴られたキースは綺麗な放物線を描きながらも、空中で体勢を整え、着地した。蹴られたダメージはほとんどないようだ。
キース「なるほど、さすがは自信満々なバリアだけあるな…」
ザルグ「ふん、言ったはずだ。これは鉄壁の防御を誇る唯一無二の壁。如何なる手段を用いようともこの気に覆われた私に攻撃を通すことは不可能だ」
キース「確かに、そのバリアは貫けそうにねーな。そういうわけだから…」
キースは剣を下ろし、攻撃を諦めたかと思うと、まっすぐザルグを指差した。
ザルグ「…何をする気だ?」
キース「…じきに分かるさ」
この時、皆にはキースのこの行動の意味が微かながら読み取れた。まさか、このまま指差して遠吠えなどということはない。キースのとる行動だから、何か意味がある。
そう考えて彼らは皆1つの結論に行き着いた。それと時同じくして、キースの指が光を放ち始めた。
ザルグ「…貴様、まさか…!」
キース「…もう手遅れだぜ!」
ザルグが身をかわすより前に、キースの指から迸った光がザルグを捕らえた。ザルグを覆っていた黒い気が、消え去った。
ユリス「凍てつく波動…!」
ルーナ「すごい…あれって勇者しか使えないんだよね…!?」
キース「そんなことないさ。俺もこれが使えるようになったのは1年ちょっと前だし、敵の中にはこれを使える奴が山ほどいるからな」
後ろから聞こえてくる声に、キースは顔だけ振り向いて微かに苦笑いした。
ザルグ「おのれ…よくも私の完全なる防御を…許さん!」
今まで冷静だったザルグが、初めて怒りの色を見せた。キースはしめた、とばかりに2人に告げる。
キース「…エド、ユリス、今だ。一気に決めるぞ!」
ユリス「…はいっ!!」
エド「言われなくても!!」
3人はバリアが解けたザルグに向かって、一斉に飛びかかっていった。
無粋な怒りは持てる力を殺す―――。キースが旅の間に学んだことだった。
キース「怒るんなら…はっきりした理由と強い意志を持って怒るんだな!」
ザシュウッ!!
ようやく聞こえた斬撃の音。キースの「なまくら刀」が、見事ザルグの体を斜めに切り裂いた。ちょうど、前にタアがつけた傷とクロスするように。
ザルグ「がはっ…!」
口から血を吐き出すザルグ。しかしキースたちの攻撃はこれだけではない。
キースが斬りつけたとほぼ同時に、後ろからはエドが背中に光の矢を撃ち込んだ。
そして、ユリスはというと。
ユリス「…はぁっ!!」
手にしていた長い槍を、深く地面に突き立てていた。