Chapter 33-3
アルム「…ぼく、考えてた時があったんです。ぼくは何のために戦ってるんだろう、って。ぼくはあまり戦いが好きじゃなくて、どうして魔物たちを殺さなきゃいけないんだろうって、ずっと思ってました」
アルムの話を、神官は何も言わずに聞く。
アルム「もちろん、やらなきゃやられるってことは分かってました。ぼくらが魔物たちを殺さないと、逆に魔物たちに殺されちゃうっていうことは分かってました。でも…何か別の方法ってないのかな、って考えてたんです」
*「ふむ…して、その答えは見つかったのか?」
アルム「…ぼくには分かりませんでした。だから、どうすることもできずに、ぼくはここまで来てしまいました。どうしてだろう、って気持ちもどこかに行ってしまって…」
アルムは半ばうなだれ気味に、呟くような声で答えた。神官は数秒の間をおいた後、アルムに背を向けて話し出した。
*「…その昔、驚くような力を持った人間が幾人かいた。彼らは、魔物と打ち解け、意思を疎通する能力を持っていたという」
アルム「えっ…それじゃ…」
*「最後まで聞いてもらいたい。彼らは膨大な数の魔物を手懐けたのだが、結局魔王に襲われた際に生き残った者はいなかった。結局、一番最後には悲しきかな、力でねじ伏せねばならぬのだ」
振り返って、そう嘆息する神官。だけど、とアルムは言った。
アルム「だけど…ぼくたちの相手は、人間なんです。だから…」
*「人間であれば尚更だ。人間は魔物に欠けている知性と理性を持っている。魔王どもが、世界を従えるなどという単純な考えで動いているのに対して、人間は複雑な知恵と思考を持っている。さすればその信念も強く、これを曲げるのはそう易くはない」
アルム「…じゃあ、結局戦うしかないんですね…?」
*「その問いは、私が答えるものではない。そなたがここまで来た理由を考えれば、自ずと答えは見つかるはずだ。ただいずれにせよ、これだけは忠告しておくが…気の迷いを抱えれば、そなたは敵の前に屈する。自分だけの強い信念を持つことだ」
神官はアルムにそうアドバイスすると、すぐそばの暖炉の火を消した。
*「もう眠るがよい。そなたは疲れているのだから」
アルム「…分かりました。話を聞いて下さって、ありがとうございます」
アルムはぺこりと頭を下げて、仲間が眠る部屋へと戻っていった。暖炉の火が消えた瞬間、肌寒くなった部屋から逃げるように。