Chapter 33-1
山の夜は、季節を問わず凍えるような寒さに襲われる。
しかし、冷風吹き荒ぶ外と壁1枚隔てられた祠の中は、安心感を併せ持った温もりに包まれていた。暖炉の火はぱちぱちと火の粉を散らしながら、煌々と光を放っている。その様子を横目に、火の様子がこの先の戦いの行方を示していたらいいのに、と少年は独りごちた。
アルム=レンバート、まだ13歳の少年である。彼は望まぬ形で、精霊から世界を救う者として選ばれてしまった。敵と呼ぶべき者が精霊に、アルムを選ぶよう仕向けられたのである。
それを拒絶した時期もあった。それを憂い、内に引きこもった時期もあった。しかし今、少年の思いは1つだった。
―――みんなでアルファたちを倒す。
それが、選ばれし者として、そして1人の人間として彼がたどり着いた決意であった。
アルム「………」
周りは既に寝静まっている。この山道を上ってきたのだ、疲れていない訳がない。しかし、どうにもその「疲れ」を超越した「何か」が、アルムの目を覚ましているようだった。
皆を起こさないように、音を立てないように、注意を払って部屋を出る。後から考えれば、戦いの前夜に何をしているのかと滑稽に思えるのだろう。
仲間たちが眠る部屋を出て、まっすぐ祠の外へと向かう。しかし、そこに着く前に、神官にばったり出会ってしまった。
*「…もう休まれたものとばかり思っていた…どこへ行くつもりか?」
アルム「すみません。ちょっと外の風に当たりたいなって…」
*「ならぬ。今は風が強い。山の天気を甘く見て、命を落とした若者を私は何人も見ている」
そう言われて、アルムは外に行くのをやめた。同時に、なぜかこんな疑問が浮かび上がり、神官に訊ねた。
アルム「あの…ずっとここに住んでるんですか?」
訊かれた神官はアルムの方をちらりと見て、それから質問に答えた。
*「…ここに留まり続けるのも、こう見えて苦だ。私がここに来たのは、今から10年ほど前になるかな」
アルム「そうなんですか…」
その時、アルムの脳裏には別の思いがよぎった。
アルム「あの、夕方に少しお話されてたこと…教えてもらってもいいですか?」
*「以前ここを訪れた旅人のことかね?」
アルム「はい、そうです」
*「構わない。こちらに来るといい」
神官は奥の部屋へと歩いていった。アルムは音を抑えながら、その後に従った。