Chapter 31-18
アランは全員の眼にそれが宿っていることを確信すると、「よし」と短く言った。
アラン「とりあえず、俺も含めて、体はまだ疲れが抜けきってない。明日1日はおとなしくして、明後日にネクロゴンドに向けて出発しよう!」
一同「…はい!!」
万全の準備をして突撃すること…。それが、自分たちが選べる最善の道だ。
アルム「じゃ、今日のところは一旦解散しよう。みんなやりたいこともあるだろうし…」
セリス「俺も賛成だな。最後の調整といくか!」
全員はバラバラの方向に散り始めた。決戦に向けて、英気を養うために。
◇◇◇
アラン「驚いてるぜ。まさか、お前がディルを倒すなんて」
アルム「ディルさんのこと…知ってるんですか?」
バルコニーで、2人は沈みゆく夕陽を見ながら話をしていた。アランは「もちろんだ」と、頷いて見せた。
アラン「3年ちょっと前、まだ旧魔王軍が幅を利かせてた時、あの男はそこにいたんだ」
アルム「…そうなんですか?」
アラン「ああ。7衛兵ってポストがあったらしくて、ディルはその2番目だったんだ。ちなみに付け加えると、1番目はザルグなんだけどな」
アルム「へえ…」
アラン「あいつは剣のエリート…いや、エキスパートだ。旧魔王軍の中でも、剣を使わせたら右に出る者はいなかったとかって話だぜ」
アルムはそれを聞いて、なるほど、と思うと同時に、わずかに落胆した。だとすれば、ディルは寝返ったのではなく、あの時まで寝返っていたということになるからだ。
アラン「まあ…難しいところだよな。いくら強くなっても、心に傷があれば、必ずそれは響いてくる。お前が勝ったのも、しっかりした思いを持ってたからだぜ、きっと」
アルム「そうですね…でも、アランさんはどうしてそんなにディルさんに詳しいんですか?」
アラン「本の虫を甘く見てもらっちゃ困るぜ。俺が読み漁ってたのはムーンブルクの大図書室の本だけじゃないんだからな」
アルム「…あの図書室にある本、全部読んだんですか?」
アラン「まさか。そんなことしてたら老人になるぞ。いくら俺でも、「世界石畳百選」とか「おいしいネギの育て方」みたいに、興味のない本はあるさ。表紙が秀逸だったもんで、タイトルは一発で覚えたけどな」
久しぶりに、アルムは心の底から笑った。そうして一通り話をし、辺りも薄暗くなってきた頃、アランは「そうだ」と呟いた。
アラン「ちょっと用事を思い出した。明日には戻るってみんなに伝えといてくれ」
アルム「あっ、はい。分かりました」
言うが早いか、アランはどこからかキメラの翼を取り出して、空に放り投げた。彼の姿が遠く見えなくなるのを、アルムはただ見ていた。