Chapter 31-13
アラン「アルム…!」
壁にぶつかったアルムがそのままバタリと倒れるのを見て、ロエンは笑みを浮かべた。
ロエン「勝った…!」
その呟きを、アルムは薄れる意識の中で確かに聞いた。そして、アランが自分の名前を呼ぶ声も。
だが、もう戦えない。事実、根性や気力でどうにかなるほど、アルムの体はこれまでになく傷ついていた。
アルム(…いやだ…諦めたくない…!)
しかし、アルムには負けられない思いがある。立てる体力が残っていない今、その思いがアルムに一筋の光を見出させた。
アルム(そうだ…!)
あることに気がついたアルムは、動かない体で無理やりロエンの方へと這いずり始めた。
ロエン「…まだやるのか…僕の勝ちは決まってるのに」
ロエンは蔑むような視線でそれを見ていた。しかし、アルムが目指していたのはロエンの足元ではなく、自分の少し前に落ちた剣であった。
アルムはその柄を右手でがっちりと掴み、そのまま上にあげていった。
4ヶ月間の空白―――。この期間に、剣の練習こそしなかったものの、アルムの心の奥底にはやはり「剣が好き」という純粋な気持ちがあった。だから、世界の剣をまとめた本や図鑑を夜遅くまで読みふけったこともあったのだ。
当然その中には精霊の剣も記されていた。そして、その剣が持つ不思議な力も。
―――強く念じて掲げることで、聖なる雷を生み出す力。
4ヶ月の空白が、今初めて意味を持った。
バリバリ…ピシャーン!!
ロエン「…ぐああああああああっ!!!」
雷はロエンの全身を駆け巡った。ロエンは激痛に悲鳴をあげ、その場に倒れ伏した。
ちょうど同じ時、アランの剣も敵を捉えていた。
アラン「眠れ…!」
ズドッ、という鈍い音。それは、アランの剣がベータの胸辺りを貫いた音だった。
アルファ「………」
ガンマ「………!」
ベータ「がはっ…おのれ…我らの世界が…ぐふっ!!」
ベータは大量の血を吐き出し、そして息絶えた。その血は人間と同じ、真っ赤なものだった。…やはり、彼も自分たちと同じ1人の人間であった。