Chapter 31-6
そう言うなり、ルージャは両手に炎を巻き起こす。さらにその横ではエドも弓を引き絞り、キラーマシンの胴体のど真ん中に狙いを定める。
ルージャ「いくぞー、ベギラマーッ!!」
ルージャの両手から、凄まじい炎が巻き起こり、キラーマシンを包み込む。その炎を目の当たりにしたタアは驚愕した。
タア(あのガキ…何がベギラマだ…ありゃベギラゴンレベルじゃねぇか…!)
今までアルムを始めとして、ベギラマは幾度となく目にしてきたタアだが、今ルージャが放ったそれはまるで格が違った。彼の言う通り、ベギラゴンと見紛うほどの業火が、キラーマシンを包んでいた。これは確実に致命傷を与えた…4人全員がそう確信した。しかし―――。
ルージャ「…そんな…うそ…!!」
炎が止んだ時、ルージャは戦慄した。キラーマシンは何事もなかったかのように、機械音を発して標的の狙いを定め、そして剣を振ったのだ。
呪文を放った直後で隙ができていたルージャ、そして矢を射るタイミングが見つからず撃てなかったエド。2人はまとめて大きな剣で薙ぎ払われ、壁に激突して気を失った。
タア「…あいつ…呪文は効かねぇってのか…!?」
剣も呪文も通じないということは―――
タアの表情がわずかに曇った時。
ノイル「バイキルト!」
タア「…!?」
タアは突然力が漲るような感じを覚えた。そしてノイルを見ると、彼は笑った顔でこう言った。
ノイル「タアなら、あんな機械簡単にやっつけられるよ!ぼくはあの2人を助けるから…」
タア「んでそこまでオレに…」
ノイル「…なんでって言われると困るんだけど、なんて言うか…タアは、ぼくらのヒーローなんだ。あの敵をやっつけられるのは、タアしかいないんだ。ぼくらじゃできない。だから…!」
ヒーロー、という単語を聞いて、タアは暫し動きを止めた。
タア「ヒーロー…か。悪くはねぇかもな」
そう呟き、タアはノイルに囁いた。
タア「しゃあねぇ、オレに任せろ…あいつらのとこに行ってやれ」
と。
ノイル「…ありがとう…!」
ノイルは安堵の表情に変わり、すぐさま2人の所へ駆けていった。その少年など、キラーマシンの眼中にはないらしい。
タア「…とことんやってやろうじゃねぇか!」
次の瞬間、タアはキラーマシンの攻撃をかいくぐり、胴体を斬りつけた。すると、斬った部分に亀裂が入った。
タア「よし…これならい…ぅおっ!?」
剣を握り、そう確信した瞬間、キラーマシンの顔らしき部分から、赤いレーザーが放たれた。寸前でかわしたが、どうやら向こうも切り札を隠していたらしい。
レーザーが当たった部分は次々と爆発していく。そのレーザーは、固まっている3人の近くにも襲いかかり、巻き上がる砂塵でタアからは彼らの姿が見えなくなった。
タア「くそ…あっちを狙いやがって…!」
タアはこの時、3人の安否を確認するより、この無差別に放たれる光線を止める方を選んだ。
タア「…ちょっとおとなしくしやがれ!」
タアはレーザーに臆することなく、真正面からキラーマシンに突っ込んでいった。そして、自らの身を捨てる覚悟で、全ての力を込めた剣を下から上に振り抜いた。
タア「…うらあああぁぁぁっ!!!」
ズバァン!!
金属が金属を斬ったとは思えないような音が、壁に木霊した。そして、胴体を真っ二つに切り裂かれたキラーマシンはバチバチとショートを始め、ついには爆発し粉々に砕け散った。
煙がおさまった頃、瓦礫の中からルージャが這い出した。
ルージャ「けほっ、けほっ…!」
ルージャはすぐに瓦礫を掻き分け、エドとノイルの2人を助け出した。それから、タアの剣が瓦礫の隙間から覗いているのを見つけると、そちらに向かって瓦礫を掻き分けた。すると、タアはひどい傷を負っていた。
ルージャ「…タア!大丈夫…!?」
タア「…当たり前だろうが…」
タアはゆっくりと立ち上がった。しかし、「ぐっ…!」と呻いて脇腹に手を当て、しゃがみこんだ。
タア「くそっ、きついのをもらっちまった…!」
脇腹が裂け、そこかなりの血が流れている。キラーマシンの剣撃をもろに受けてしまったのだろう。足元の瓦礫は真っ赤に染まり、顔からはどんどん血の気が引いていった。
ルージャ「エドとノイルは、気絶してるみたいで…」
タア「…そうか、ならここから動くわけにはいかねぇな…!」
タアは悔しげに唇を噛むと、崩れかかった螺旋階段をちらりと見やった。
タア「あいつらなら…大丈夫か…」
そう呟いて、タアは意識を闇に落とした。